過去
私は、普通の家に生まれて、普通の家で育った。
可もなく不可もなく。貧乏でもなければ裕福でもなくて。
そんな、普通の家だった。
そんな家で育った私は、「おとうさん」と「おかあさん」が大好きだった。
今はどうなのか、自分でもわからない。けど、「おとうさんだったひと」は間違いなく今は嫌いだ。断言できる。
ある日、「おかあさん」が死んだ。
原因は、小さい私には理解できなかった。いまでもわからない。
その日から、「おとうさん」は変わってしまった。
優しい「おとうさん」は、毎日のように私に暴力を振るった。「彼女が死んだのはお前のせいだ」って、私を、殴ったし、蹴った。
「おかあさん」の死因がわからないから、私には反論のしようがなかった。ただ、殴られるだけのサンドバッグだった。
ご飯をくれない日だってあった。
どうやって生きてきたのか…って?
近くのお店の裏のゴミ箱から食べれるものを漁ったり…とかかな。もちろん、お店の人怒られもしたけどね。
そんな生活が続いたあと、案の定私は捨てられた。
比喩じゃなくて、文字通り、飼いきれなくなったペットを捨てるように、捨てられた。
追いかけて来ないように、ご丁寧に両手足を縛りまでしてね。
そのあと、近くの村の人に助けてもらえたんだけど、その人の家には行かなかった。人間不信ってやつ。
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「で、このまちにたどり着いて、イノくんとツバキちゃんの二人に拾われたんだ」
モミジは、何でもないかのようにいうが、とんでもない人生である。
「いま思い返しても、ここに来た頃の自分はひどいもんだよ。2日間は用意してくれたご飯も食べなかったし、一言もしゃべらなかったから」
その時、モミジの釣りざおに魚がかかる。が、モミジはその魚を逃がした。大事な話をじゃまされたくなかったのだろう。
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「あ! あれ見てイノくん! 女の子!」
とある冬、ツバキが、路地のなかに座る、一人の少女を見つけた。
少女は警戒し、逃げ出そうとするが、衰弱しきって、立ち上がることすらできなかった。
「大丈夫、僕たちは怖くないから」
イノが少女をの頭を撫でようとするも、少女は素早く身を引いた。
だが、結局少女は動けないので、ツバキがおぶって帰ることにした。
「…イノくん、この子、だいぶ弱ってるけど…」
「分かってる。とりあえずスープ作ってるから、毛布でも掛けといてやってくれ」
「イノくん料理出来たっけ?」
「簡単なものくらいは出来るわ!! バカにすんな!!!」
この頃から2人は変わらないらしい。
ツバキが首を傾けると、イノは思い切り突っ込む。
少女は、そんな2人を少し羨ましそうに見ていた。
「…ほら、食べろよ」
イノが少女の前にスープを差し出す。
細かく刻まれた、色とりどりの野菜が散りばめられたスープは、白い湯気をあげ、見てくれは美味しそうだった。見てくれは。味は知らん。
少女はスープを前にしても、手を動かそうとしなかった。
「…ほら、あーん」
腕を動かせないのかな、そう思ったツバキは、スプーンを少女の口に運んであげる。が、少女はそっぽを向いてしまった。
「…なんでだろ…」
「家庭環境の問題だろうな。ここまで人間不信になるなんて、どうかしてる」
「なんで人間不信って分かったの?」
「ここまで衰弱しきってるのに出されたもんも食わねぇとか、それしか考えられねぇよ。なんにしろ、今の僕たちには解決できない問題だ」
そう言ってイノは椅子から立ち上がる。
「食いたくなったら食えよ」
そう言うと、イノはリビングを出ていった。
その後も、イノとツバキは、少女のために、1日3食キチンと作ったのだが、少女が初めてその料理を口にしたのは、3日目の朝だった。




