帰道
「先輩、大事な話があるんだけど」
モミジに手品を披露してもらった夜、ユウキはいつになく真面目な顔で、ハルマに向き合っていた。
「もとの世界に帰りたいって、思ってたりする?」
ユウキは、その真面目な顔を崩さぬまま、ハルマに訊いた。
「私は帰りたい。けど、先輩はどうなのかな、って」
自分の考えも伝えた上で、ユウキはハルマにもう一度尋ねる。
「…俺は…」
そこでハルマは口ごもってしまった。今のユウキに対しては、さすがに返しづらい答えなのだろう。
「いいよ。どんな答えでも」
表情は真面目そのものだが、先程よりも少し柔らかくなった声で、ユウキは言う。
「…俺は…帰りたくはない、かな…」
「まぁ、そうだよね…」
ユウキはハルマの答えを受け、少しだけ憂いを帯びた表情になった。
「そうか…そうだよね…」
ユウキは表情を崩し、窓のそとをぼーっと眺め始めた。
綺麗な星が瞬いている。
「俺が帰らねぇと、なんか問題でもあるのか?」
「…いや、大したことじゃないけど…帰る方法、まだ見つかってないんだ…」
「なるほど。できればそれを、俺に手伝ってほしかったと」
ハルマが言うと、ユウキはこくりとうなずいた。
「無いなら無いで仕方ないんだけど…先輩、どうせ帰らないのに、帰り道探すなんて面倒だよね…」
「…いや、探すくらいなら手伝ってやるぜ?」
「え?」
ユウキが驚きの顔でハルマを見る。
「まぁ、あっちじゃちょいちょい世話になったしな…それの恩返しだ」
「…そっか」
「まぁ俺の気まぐれだよ。そう大きく捉えないでくれ」
ハルマはその言葉を合図に立ち上がる。
「…そろそろ眠いし、もう寝ようぜ」
「うん。そうする」
二人はそれぞれの部屋に向かい、夜を明かした。
「暇だ」
「暇だね」
ハルマとモミジは、釣りに来ていた。特に大きな意味はないが。なんとなくハルマがやりたかっただけだ。
「…約束、破ることになるかもだけどさ」
唐突にモミジが切り出した。
ハルマはそれを黙って聞いている。
「やっぱ、私には、隠し事なんて、向いてないみたい」
「それは、過去を話したいってことか?」
「うん。ハルマくんには、ちゃんと私のこと知った上で、付き合ってもらいたいから」
もちろん、ハルマくんは話さなくてもいいんだけどね、とモミジは付け加えるが、ハルマはそれを断った。
「いや、俺も話すよ。さすがに気が引けるし、お前の言うことも一理あるしな」
そっか、とモミジは微笑む。
「じゃあ、私から話すよ…」




