感情殺害
馬車はスピードをあげるが、鶏も追いかけてくる。
「だぁああああああ!!! なんなんだよあいつ!!」
ハルマは窓から身を乗り出すと、後方の鶏に向かって思い切り悪態をつく。
「しょうがない。帰るまでとっとくつもりだったけど、私の新しい武器の力見せますかぁ…」
ツバキはそう言うと、大槌を構える。
デザイン自体は前のものとそう代わり映えしないが、何かが違うのだろうか。
「見て驚くなよ、鶏っ!!!」
ツバキは馬車から飛び出すと、大槌を地面に向けて振り下ろした。
すると、叩いた周りの地面が膨れ上がった。いや、叩いた場所から鶏に向けて一直線に地面が隆起した。
ゲームでよく見るようなアレだ。アレ。
突然生まれた山脈は、巨大鶏を大きく吹き飛ばす。
「じゃあ最後は私が決めてやる!!」
ユウキは光り輝く杖を構える。
柄は黄土色の金属で出来ており、杖の先にはルビーのような紅い宝石が煌々と輝いている。
「ぶっ飛べ!!!!」
ユウキが杖を振ると、小さな魔法弾が鶏に向けて飛び出した。
鶏は未だ空中に浮き上がったままだ。
鶏故に、飛んで逃げることが出来ず、そのまま魔法弾と衝突した。
その瞬間、ド派手な爆発が鶏を飲み込んだ。
第2の太陽かと思わされるほどの火達磨が、地面と衝突した。
「…おい、ツバキは?」
「ここにいる」
馬車の経りに立ったハルマの足元からツバキの声が飛んだ。ツバキは大槌で地面をぶっ叩いた後、馬車の床をギリギリ掴んで、這い上がっていた。
彼女は見かけによらず、かなり運動神経がいい。
「にしても、でっけー焼き鳥が完成したな」
「塩も胡椒もタレもないけどね」
ハルマが黒焦げの鶏を見て皮肉混じりに言うと、ユウキが冗談を交えながら苦笑する。
「さて、今日は早めに出たし、日が沈む前に帰れそうだ」
イノは馬のスピードを落とし、快適な速度にすると、1つ大きなあくびをした。
帰ってきたハルマたちは、馬車を貸馬車屋に返し、白極堂に向かった。ビャクヤたちにお礼を言うためだ。
「ありがとな、メシア紹介してくれて」
「ううん、いいよいいよ。役に立てたなら何より!」
そう言うと、ビャクヤはない胸を張ってみせた。
おっと、口が滑って要らないことまで言ってしまった。どうしようかなぁ。ビャクヤから口止め料貰ってんだけどなぁ。
「…ところで、たった今、私の残念な胸に対して誰かが何か言った気がしたんだけど」
「ツバキだろ」
「違うよ!?」
よかった、僕が言ったとはバレてない。
ツバキには罪をかぶって頂こう。
「にしても、お前ら昔からの知り合いなのか?」
「えっ? なんで?」
「え? あいつから少し話聞いたから…」
「あ、あぁ、なんだ…聞いてたのか…メシアちゃん人間として過ごしてるからね。ハルマくんに限ってとは思ってるんだけど…中々警戒しちゃって…」
ビャクヤは申し訳なさそうに、今回はちゃんと被っている帽子の上から頭を搔く。
「いやでも、獣人と仲良くしてくれる人間くらいいるにはいるだろ? 別に人間と仲良くてもおかしくはねぇだろ」
「…あっ、確かにそうだね…私本当に人間が苦手で…あ、ごめん! ハルマくんの前でこんな話しちゃ不味かったよね…?」
ビャクヤは自身の失言に気づき、両手を合わせる。だがハルマは笑って首を振る。
「いいよいいよ、俺も人間嫌いだしな」
「…えっ?」
「まぁ今回は世話んなった! じゃあな!」
「え、あっ、ちょっと!?」
ハルマはそう言うと、足早に白極堂を後にした。
そこには、ただぽかんとした顔のビャクヤたちが残されていた。
「ねぇハルマくん?」
家路を辿っていると、モミジがハルマに話しかける。
「人間嫌いって言ってたけど…なんかあったの? いや、詮索しないって約束はわかってるんだけど…私たちといるの、もしかして嫌だったりしない…?」
不安そうな顔でモミジはまくし立てる。特に彼女は昨日彼と交際を始めたばかりだ。不安になるのも仕方ない。
「別に。お前らといるのが嫌なんてことはねぇよ、ユウキを除き」
「なんで!?」
ハルマがからかい半分に言うと、ユウキはすぐに突っ込む。
「…俺だって嫌いなやつくらいいるさ。…それが周りの人間と比べて多すぎただけだ」
ハルマは、感情を殺したような声で、機械的に言った。
だけど、彼女にはその気持ちが理解出来てしまっていた。




