ふたたびちきん
「まぁいいや、もうここには用ねぇし、とりあえず帰るか」
イノはそう言うと、まとめた荷物を担ぐ。
わりと大きい荷物だが、これがこっちで買った武具なのだろうか。
チェックアウトを済ませたハルマたちは、一旦メシアに声をかけてから帰ることにした。
「あぁ、もう帰るのかい? もう少しゆっくりしてってもいいじゃないか」
メシアは出会った時と変わらない、おちゃらけた様子でハルマたちを引き止める。このような、客人が帰る時の礼儀のようなものは、こちらの世界にもあるのだろうか?
「いや、もうなんかかなり世話になっちまったし…これ以上居座っても申し訳ねぇっつーか」
「そっか、気にしないでくれていいんだけどねぇ」
ハルマが率直に言うと、メシアは苦笑しながら言う。
「んじゃあ、ビャクヤとキョクヤによろしく伝えといておくれよ」
「分かってるって」
ハルマも苦笑して返し、メシアと別れた。
前日から借りたままの馬車に乗り込む。
馬車のレンタル期間は思ったよりも長いらしい。
「あんのクソ鶏、また出やがったぁ!!!」
ハルマが馬車の窓から身を乗り出して叫ぶ。
そう。行きがけに出会った巨大鶏である。
「どうやって撃退すんだよあんなのよぉ!!!」
「分かんないよ!?!?」
イノとツバキが頭を抱える。
足止め程度にもならないが、ユウキが持ち前の魔力で魔法弾を放つ。
「あの、そろそろ体力がやばい…」
「魔力って体力に比例すんの!?」
「いや、魔力=体力って言った方が近いかな…」
ハルマが目を丸くすると、ユウキが苦しそうに答える。インターバルを置かなければ、少々きついだろう。
だが。
「…そんな暇、1ミリもねぇぞ…!?」
そもそもダンゴムシでさえひるませたユウキの魔法弾が、足止めにさえならないのだ。
あの鶏を止めるすべは一つだけあったわ。
「傘あった」
ハルマがポケットに無理やり詰めた折り畳み傘を取り出した。何やかんやで存在を忘れていた。
「…待て、それ投げるつもりか?」
「…おう」
「…取りに行けるか?」
「保留だ」
ハルマは馬車の椅子に座り直した。
「おぃいいいいい!!! 馬車動かして取りに行けばいいじゃん!?!?」
ユウキが盛大に突っ込む。
「知ってるか? 馬車ってあまりに急激な方向転換は出来ないんだぜ?」
鶏は位置的に、馬車のほぼ真後ろにいる。投げた傘を取りに行くのは中々難しいだろう。
「降りて走れば!?」
「距離」
鶏のでかさで錯覚を起こしそうになるが、人間にとってはまだまだ遠い。ハルマの体力では取りに行って帰ってきたら息の上がり方が尋常ではないだろう。
「じゃあどうすんのさ!?」
「…逃げる」
「賛成」
イノは操縦席に座る。
そして馬のスピードを一気に上げた。




