8. 謎能力開花
翌朝、いつもより早く宿を出た二人は、予定通り西の森に来ていた。
「サミアン! そこで止まれ」
クリスは少し先の大木に、ゲイルシュライクの群れを確認して足を止めた。
「数が多すぎるな。大半は逃げるだろうが、攻撃も避けられない」
クリスはゲイルの群れを観察しながら、今後の行動を慎重に見極めていた。
アリアの話では、この街で活動する冒険者に、ゲイルを討伐できる者がおらず、数年に一度、数人の上級者冒険者を呼んで一斉討伐を行っているらしい。
今回はサミアンもいる。
数羽から一斉に攻撃されたら、どんなに動きが速くても避けきれない。
「今回は、あきらめるか…… あれっ? サミアン?」
サミアンがいない。
縄張りの手前で止めたはずなのに……
その時、静かな森に「キェェ」とゲイルの鳴き声がこだました。
そして、それに呼応するように他のゲイルも一斉に声をあげ、羽ばたいた。
「まずいっ!」
大半は逃げるように遠ざかっていくが、数羽は助走をつけるように、真上に飛び立った。
そしてそこから目にも留まらぬ速さで下降してくる。
「サミアンッ!!」
クリスは用意していた3本の矢を一度に放つ。
矢は見事に的中し、3羽のゲイルを射貫いたが、数羽はサミアンまで到達したはずだ。
クリスは後続のゲイルを打ち落としながら、サミアンのところまで駆けつける。
そこにいたのは、1羽のゲイルを踏みつけ、もう1羽を口に咥えたサミアンだった。
「クリチュたま! つかまえまちた」
(えぇ~ そんな簡単に~)
唖然とするクリスだが、今は放心している場合じゃない。後続のゲイルが次々と攻撃してくる。クリスはそれがおさまるまで、矢を放ち続けた。
「クリチュたま! かっこよかったでちゅ!! 矢がヒュンヒュンって!」
「あ~うん」
サミアンの足元には、さらに3羽のゲイルが追加されている。
サミアンは自分の成果より、クリスの弓の腕に興奮しているようだが、褒められてもテンションがあがらない。
勝手に先に行ったサミアンを怒る気力すら湧いてこなかった。
だが、今回クリスが射貫いたゲイルは23羽。サミアン5羽。
討伐としては、これ以上ない成果だった。
「はぁ、疲れた。回収して帰るか」
すべてのゲイルを集めるとかなりの量になった。
「だいじょうぶでちゅ! タミアンもおてつだいちまちゅ!」
そう言って、降ろしたリュックにゲイルを詰め込もうとするサミアン。
「いやいや、入ったとしてもせいぜい1羽しか運べないだろう」
冷静につっこむクリスだったが、ありえない光景を目の当たりにする。
サミアンは、次から次へとゲイルを咥え、リュックに放り込んでいく。
「えっ? おかしいだろ? それマジックバッグじゃないし!!」
銀貨3枚で買ったバッグがマジックバッグなわけがない。
マジックバッグは、空間魔法を使える伝説的付与魔術師にしか作れず、安いものでも金貨10枚はする代物だ。
「ちゅごいでちゅ! タミアンのリュックはたくたんはいりまちゅ!」
「そんなわけあるかっ! おまえ、実はアイテムボックス持ちなんじゃないのか?」
「アイテムボックチュ? なんでちゅか? とれ?」
「空間魔法の一種だよ。別の空間に物を収納して、好きな時に取り出せる、便利な能力だ」
「へ~、ちゅごいでちゅね」
サミアンは、アイテムボックスにはあまり興味がないようだ。それより、お気に入りのリュックに物がたくさん入ることの方が重要らしい……
「まあ、どっちでもいいか」
今日はサミアンの謎能力に脅かされてばかりで疲れた。
ただ一つ確かなことは、これからの旅路で、荷物の重量を気にする必要がないということだ。
(もう、それでいい……)




