60.これください
「おれも武器がほしい!」
ガイン行きつけの武器屋で、大剣の修理を頼んでいると、ノインが話に割り込んだ。
「そうだな、ショートソードくらいなら、稽古を始めてもいいかもしれんな」
「やった! おれも竜の神域で戦える!」
「バカを言うな、神域では獣型で行動して、いつでも逃げられるようにしておけ」
「えっ!? いやだよ! 獣型なんて」
獣人は、獣型の方が感覚が鋭く、危険回避能力が高いようだ。付け焼き刃の武器を持たせるより、よほど安心なのだろう。
「武器は、扱えなければ持っていても意味ないだろ?」
「母上まで!!」
ノインは不貞腐れてしまった。
サミアンはいじけるが、ここまで露骨に拗ねることは少ない。個人差なのか、サミアンが長く生きているからなのかはわからないが、小さい子供の扱いは、なかなか難しい。
そんなノインにガインが声をかける。
「獣型にならないなら、置いていくまでだ。危険回避もできないお荷物を連れて行けるほど、甘い場所ではないのでな」
(だから、今追い討ちをかけるなー!!)
「タミアンは、獣型でいきまちゅ」
「おまえはいつもだろ!」
クリス達が騒いでいると、ガインの大剣の具合を見ていた武器屋の店主「ルード」が突然怒鳴った。
「うるせぇ! 喧嘩なら外でやれ!」
「悪いなルード。にぎやかで」
ルードはガインの言葉を聞いて、目を丸くした。
「ガイン、おまえ変わったなぁ。長年ここに通っているが、そんなに喋るおまえを見るのは、初めてだぜ。それにしても、嫁さんと子供がいたとは驚きだ」
(よ、嫁っ!?)
聞きなれない言葉にクリスは、頬を染める。「父」「母」呼びには慣れたが「嫁」は初めてだ。
「……話せば長くなるが、実の嫁と子供ではない」
(え、説明、雑すぎないか?)
「まあ、よくわからねぇが、家族を持つのはいいことだ」
ルードの言葉にガインは、バツが悪そうにそっぽ向いてしまう。
「だが、丸くなったわけでは無さそうだな」
ルードはガインの大剣を確認しながら、そう言った。
グランドバジリスクにグリフォン、アーマードボアにブラッドベア、そして大量のレイザーホーン。
ガインもここまでハイペースで高ランク魔獣を狩ったことはないという。
最後、やけになってレイザーホーンで荒稼ぎしたのもいけなかった。
「こんな状態になるまで酷使するとは珍しいな。こりゃあ、修理に時間がかかる。いっそのこと新しい剣にしたらどうだ?」
「新しい剣か、このサイズの大剣があるのか?」
「……ねぇな」
「じゃあ、一週間で頼む」
ルードは少し顔をしかめたが、「しかたねぇ」と引き受けてくれた。
「だがこんな使い方していたら、いつまで持つか解らねぇぞ」
「ああ、わかった」
(本当に、わかってんのか!?)
これから行くのは竜の領域だ。ガインが剣を酷使することは、目に見えている。
そう思いながらガインを見ていたら、ガインは、ふと何かを思い出したかのように口を開いた。
「そういえばクリス、おまえは剣も使えるのだろ?」
「あー、うん。だけど、弓と両方だと嵩張って……」
(あー!! おれ、マジックバッグ持ってたー!!)
クリスは、マジックバッグの存在を思い出し、並べられた剣の中から1本を手に取り、軽く振り下ろした。
(よし!)
「これ下さい」
「えっ? いいのかい? そんな大根買うみたいに選んじまって」
「持ち手も重さも丁度いいし、重心のバランスも申し分ない」
クリスの買い物は早かった。
「ガイン、面白い嫁だな」
「そうか? ここに出している中では一番いい剣だろ?」
「まあ、そうなんだが…… 支払いは大丈夫かい?」
「はいっ! 金ならあるので」
クリス達はレイザーホーン30頭の他、手当たり次第狩った魔獣の
報酬として、金貨220枚を得ていた。一人分でも110枚だ。増える一方で持っているのも怖い。
「金貨15枚だ」
(あまり減らない……)
「ルード、他に剣は……」
「あ、いいよ。この剣、気に入ったし」
ガインが、店の秘蔵品を要求しそうだったので、慌てて止める。
金が思ったより減らないのは、ガッカリだが、そんな秘蔵品を出されても手に余る。
だがルードは、クリスの不満を逆の意味に取ったようだ。
「少々値は張るが、刃には上質な鋼を使ってる。手入れさえ怠らなければ、長く使える剣だぞ」
(うん、普通、もっと高いの出せって言うとは思わないよな)
「はい、この剣でお願いします」
そうして剣の購入を決めると、さっさと金貨15枚を出して支払う。ガインも大剣の修理代と、ノインのショートソードの代金を支払った。
ふと足元を見ると、サミアンが頭を下に向けている。可哀想だが、獣型のサミアンに使える武器はない。
「サミアン、帰りにドーナツ買ってやる」
「ドーナツだいちゅきでちゅ!」
サミアンの機嫌は、あっさりなおった。




