61.剣の稽古したいのか?
一週間の足止めを食らったクリス達は、思い思いの休暇を過ごしていた。
「えぇい!! あうっ!」
「手当たり次第に振るな! 真剣なら、自分の足を切り落としてるぞ!」
クリスは、宿の中庭でノインに稽古をつけている。
さすがは、獣人、というよりガインと同じ血筋のせいか、ノインは筋がいい。
頑張れば将来はSランクになれるかもしれない。
「くっそー、母上、強すぎるよ」
「始めたばかりの子供にやられるわけないだろ?」
そう言いつつも、ノインは下手なFランク冒険者なら、倒せるかもしれない。
(恐るべき身体能力……)
サミアンは、なぜかさっきから、中庭をグルグル歩いている。
時々、クリスとノインの様子を伺っては下を向き、哀愁を漂わせながらトボトボ歩いているのだ。
(人化できないの気にしてるんだよな、きっと)
「サミアン、おまえも稽古するか? 剣じゃなくても、防御の訓練とかできることはたくさんあるぞ」
「タミアンは…… いいでちゅ」
どうやら相当落ち込んでいるようだ。
先日、ルードの店でノイン用のショートソードを買った。
サミアンは武器が持てないので、ルードの店で買う物はなかった。
(帰りのドーナツでは誤魔化せなかったか…… めっちゃ食ってたのに)
「ノイン、少し休憩だ。体力余っているなら、素振りでもしておけ」
「わかった」
ノインは、迷わず素振りを選んだ。自分でも成長を感じられる時期だ、少しでも多く稽古をしたいのだろう。
クリスは、トボトボ歩くサミアンを抱き上げる。珍しく抵抗し、短い手足をバタバタさせるが、対面になるよう抱え直すと、大人しくなった。
「剣の稽古、したいのか?」
サミアンは、黙って小さくうなずいた。
クリスはサミアンの背中を優しく撫でる。本当はノインが羨ましくて仕方がないのだろう。
モナは人化は封印とは関係ないかもしれないと言っていた。ならば、何がサミアンの人化を止めているのだろう……
「今まで人化したいと思ったことは?」
「ありまてん。タミアンはぢんかできることをちりまてんでちた」
「母親は人型だったんだろ?」
サミアンは、考えたこともなかったのか、ただ黙って目を潤ませる。
(まあ200年も獣型で過ごしたら、今さら人型になれるとは思わないよな……)
まずはこの思い込みが、余計にサミアンの人化を妨げている気がする。
弓の訓練でもそうだった。複数の矢を同時に放って別の場所に命中させるなんて、出来るわけがないと思っていた。それが世の中の常識だからだ。クリスもそれが当たり前と思っているうちは、絶対にできなかった。
だが、その先入観を払拭できた時、クリスの矢は自由自在に別々の弧を描くようになった。
これは全てにおいて言えることだとクリスは思っている。
「サミアン、おまえは200年一人で家族ができると思っていたか?」
「……ほちいと思っていまちた」
「できないと思っていたか?」
サミアンは、しばらく考えて首をかしげる。
「……わかりまてん」
「やりたいことは『無理だ』って思っているうちは、心も体も固まっちゃって『できない』んだ。『まあ、そのうちできるかな』くらい気楽に考えていると、いつの間にかできるようになってるもんだ。だから、あまり思い詰めるな」
「うっ、うぅ、おかあたま~」
サミアンは、ボロボロ涙を流した。きっと平気なふりして、一人で耐えていたのだろう。
「今はこれまでの200年と全然違うだろ? おまえには、いつの間にか家族がいるんだから」
「うぇ、ズピッ おがあだま~」
クリスはサミアンが泣きつかれて眠るまで、サミアンの背中をなで続けた。




