59.今は黙ってろ
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「竜の神域か…… 『最奥へは、誰もたどり着けない』だったよな」
レオルドは、震えるサミアンを撫でながら呟いた。
レオルドが口にしたのは、竜の領域についてまとめられた伝記の一節だ。冒険者なら知らない者はいないだろう。
遺跡のようなものを見たと言う者もいるが、蜃気楼のように忽然と消えたとか、どんなに進もうと近づけなかったとか、ハッキリしたことは何もわからない。それが竜の領域という場所だ。
「レオルドさんはSランクだったんだろ? 行ったことないの?」
「んー、あるにはあるが東の領域の中程までだな。レッドドラゴンの素材採取依頼でな。人間どもは、竜を信仰しているくせに、竜の素材を欲しがる。意味わかんねぇな」
レッドドラゴンはSランク最上位の魔獣だ。その素材は火魔法の魔力を帯びており、国宝並みの金額でしか取引されないはずだ。
「聖竜教では、黒竜以外は邪悪な存在なんだろうな」
そんな話をしていると、レオルドが「ハッ」と何かを思いだし、心を落ち着かせるように「コホン」と咳払いをしてから口を開いた。
「で、だ。ものは相談なんだが、そのレッドドラゴン討伐に挑戦する気はないか? ほかのパーティーと合同でいいんだが…… おれが人集めるし」
おそらく放置された依頼でも思い出したのだろう。レオルドは、ここぞとばかりに依頼をぶっ込んできた。
「断る」
「即答かよっ!」
ガインは、話にならんとばかりに即答した。
「レッドドラゴンは、Sランク三人以上を中心に、それぞれのパーティーを編成して挑むのが推奨されていたはずだ。ちょっと前にもどこかのパーティーが人を集めて挑戦したが、参加したSランク一人とAランク二人が犠牲になったと聞いている」
「うんこになったんでちゅか?」
「サミアン、今は黙ってろ」
レッドドラゴンの討伐という、クリスには一生縁がないと思っていた話を、目の前のSランク二人が普通に話している。
クリスは、レベルが違いすぎて話に入ることができず、普通に入っていったサミアンを止めることしかできなかった。
「Sランクと言ってもピンキリだろ? おれの時は、おれとAランク8人でなんとかなったぞ」
「おまえのパーティーは異常だった。おまえが強すぎて、周りがAランク認定しか貰えなかっただけだ。実際パーティー解散後に三人もSランクに昇格したじゃないか」
「おれは人を見る目があるからな。パーティーへの誘いを断られたのはおまえだけだ。おまえとクリスが行くなら成功確率が格段に伸びるんだがなぁ」
レオルドはニヤニヤしながら、逃げ道を塞ぎにかかる。
クリスは、ガインに目で訴えた。
(ダメ! 絶対!)
「こ、今回は調査もある。ほかのパーティーと予定を合わせるのは面倒だ。それに、子供達も連れて行く。危険な任務は受けられない」
ガインは、クリスの圧を正しく感じとってくれたようだ。
ついこの間まで、Cランク魔獣を狩っていたのだ。Sランク最上位の前に放り出されたら、それこそ「うんこ」になってしまう。
「まぁ、仕方ないか、おまえら『なかよち家族』だもんな」
「アァッ!?」
ガインが低い声で怒りをあらわにする。おそらく、ガインを挑発して、逆上したガインが勢いで首を縦に振ることを期待したのだろう。
(ガイン、落ち着けっ!!)
クリスは、思いを眼圧に乗せて、レオルドの腕の中のサミアンを見つめた。
(な・ん・と・か・し・ろっ!)
「はわっ! お、おじいたま、タミアンはうんこになりたくありまてん!!」
サミアンが、ウルウルした目でレオルドを見上げる……
「わかったよ! この話は無しだ」
(よくやった! サミアン!)
「レッドドラゴン」の話になってから、一人で異常なまでの緊張感に包まれていたクリスは、ホッと胸を撫で下ろした。
神域までは少なくとも10日はかかる。武器の手入れや物資の補充なども必要だ。
クリス達は、しばらく王都に滞在することにした。




