58.普通の家にはないのか?
「へぇ、ガインの甥っ子か」
「父上っ!」
「父上って呼んでるけど……」
「正確には従兄弟だ」
「父上~」
ギルド長室に移り、バルガンでの出来事を報告している。レオルドは、ガインそっくりなノインに興味津々なようだ。
そんな中、サミアンはレオルドの腕のなかで「ギルド長に一目おかれてる面」をしている。
「それにしても『聖竜教』か」
レオルドは、謎を解決しに行ったはずのクリス達が、新たな面倒事を持ち帰ったと思っているのだろう。
「おれ、あいつら嫌いだ。おれが狼だといったら『白狼は神の名を語る邪悪な存在だから、嘘でも口にするな』って言われた」
「邪悪……これが?」
当の白狼は、レオルドの腕の中で、スヤスヤとお昼寝をはじめた。邪悪さの欠片も感じない。むしろ癒しでしかない。
レオルドはサミアンを撫でながら、口を開いた。
「クリスは人間なのに、聖竜教を信仰していないんだな?」
「ああ、それは……」
クリスは、胸元からペンダントを出して見せた。
「これはおれの家に伝わるもので『神竜の涙』って石がついているんだ」
「神竜の涙?『聖竜』ではなく?」
「そう、よくわからないけど、竜の神域とかで光るんだよ」
「えっ?」
クリスはさらっと言ったが、レオルドとガインは顔をしかめている。
クリスは、それを首から外すと、露天で買った装飾品のように指でクルクルと回した。
「けどこれ、教会で光ったことないんだよな。本当に神聖な場所なら光るはずだろ?」
「クリスおまえ……」
「?」
昔から不思議だったのだ。
このペンダントが光らないこともあり、聖竜教の教会で神聖な気を感じられないのだ。
自分がおかしいのかと思い、わりと真剣に教義を学んでみたが、クリスが信仰を深めるには至らなかった。
ふと気がつくと、なぜかレオルドが拳を震わせ、ガインが頭を抱えている。
「そんな重要なもん持ってるなら早く言えよっ! 刺客だってそれを狙っているんじゃないのか?」
レオルドが急に大きな声を出したので、クリスは驚いてペンダントを回す手を止める。
「子供の頃から家にあるのが当たり前だったし…… 普通の家にはないのか?」
「あるわけないだろっ、それを叔父さんに渡せば済む話じゃねえのかっ!?」
クリスは、少し申し訳なくなった。まさかこれのせいでみんなを危険に巻き込んでいたとは……
だがこれを叔父に渡すことはできない。
クリスは石の部分をギュッと握りしめて、口を開いた。
「これ、おれの母親が『絶対に自分が認めた相手以外に渡してはいけない』って言っていたんだ」
クリスがそう言うと、頭を抱えていたガインが顔を上げた。
ガインと目が合う。
そしてそのまま、真っすぐクリスを見つめて口を開いた。
「そうか、ならば絶対に守らねばならんな」
今の話の流れでは、呆れられると思っていた。
だがガインは迷うことなく「守る」と言った。
これを手放せば、全て解決するかもしれないのに……
クリスは、顔を綻ばせた。
ガインの真っ直ぐな言葉は、クリスの心の奥まで響いた。
以前はあんなに意地を張っていたが、もう一人で頑張らなくてもいいのだと、自然に思うことができたのだ。
「うん」
クリスがうなずくと、ガインは「自分達の覚悟を認めろ」とばかりに、レオルドに向き直る。
「はぁ、仕方ねぇ奴らだな」
レオルドも納得してくれたようだ。
頭を掻くと、真面目な顔で言葉を続ける。
「こうなったら、竜を調べたほうがいいんじゃないか? サミアンの母についてもわかるかもしれない」
確かにそうだ。
聖竜教が白狼を邪悪な存在としていることと、狼族が根絶やしにされたこと。この二つは、本当に無関係なのだろうか?
「それからクリス、アルヴェリアのギルド長から連絡があった。まだおまえの叔父について調べはついていないが、アルヴェリア国内で、王権反対派の活動が活発化しているらしいぞ」
「え?」
アルヴェリアの王族は、他国の王族ほど華美ではなく、着実な国家運営を行っていることで知られている。国民の支持率も高く、反乱を起こす方が難しいように思える。
「キナ臭い話ばかりだな」
レオルドは、また面倒事が増えたとばかりにそう言った。
「クリス、竜の神域に行ってみないか? 奥には遺跡のような物があるという話を聞いたことがある」
黙って話を聞いていたガインが口を開いた。
クリスも気になっていた。
トルクトスに入国する前にも通ってきた道だ。竜種の魔獣が多く危険な領域……
だがあの場所で、確かにペンダントは光っていた。
「よし、行ってみるか、竜の領域!」
「えっ!?」
いつの間にか目を覚ましていたサミアンが悲壮な顔でクリスを見つめている……
「タミアンたちは、ついにうんこになるんでちゅか?」
(その設定、まだ生きていたのか……)




