6. はじめてのお買い物
「おっかいもっの~。おっかいもっの~」
サミアンが変な歌を歌い、四つ足でスキップのようなステップを踏みながら先に行く。
恥ずかしいから、少し離れて歩こうか……
クリスの心を読んだようなタイミングで、サミアンが振り向いた。
「クリチュたま~! はやくでちゅ~!」
(うわ~。名前呼ぶなよ~)
クリスは知らんぷりして、サミアンの横を通りすぎる。
「クリチュたまっ! クリチュたまっ!」
(連呼するなっ!!)
「クリチュたま! むちするなんて、ひどいでちゅ」
必死にあとを追いかけるサミアンが可愛くて、ついつい意地悪をしてしまった。
クリスは足を止め、サミアンを抱き上げる。
「浮かれすぎだ」
「タミアン、おかいもの初めてなんでちゅ!!」
「そうか、楽しみだな」
「はいっ!!」
下におろすと、またスキップをはじめそうだ。クリスは、サミアンを抱いたまま歩くことにした。
「いい匂いがちまちゅ」
この辺は露店も多く、甘い匂いやら、肉を焼く匂いやら、美味しそうな匂いで満たされている。
「銅貨つかうか?」
「……つかいまてん」
「そうか」
「タミアンは、バッグがほちいでちゅ」
「おまえ、バッグ持てないだろ」
「もてまちゅ!!」
サミアンが言い張るので、革製品の店を探した。
その店に入ると、一般用から冒険者用まで、ありとあらゆる革製品が並べられていた。
「へぇ、皮鎧まで置いているのか」
「いらっしゃいませお客様。ウチは、革製品ならなんでもご用意させていただいております。冒険者の方なら、素材の持ち込みも可能です」
姿勢のいい老店主が声をかけてきた。
彼のいう通り、珍しい素材の物も多く、素材の買取りも行っているようだ。
「今日はコイツに合うカバンを探しにきたんだ。何かあるかい?」
サミアンを見ながらそう言うと、店主は少し意外そうな反応をみせたが、すぐに奥へと誘導してくれた。
「こちら、獣型でも使えるように設計した背負いカバンですが、いかがでしょう」
そこには大きな物から小さな物まで、たくさんのリュックが置かれていた。
(あるんだ。サミアンにも持てるバッグ……)
「この先のトルクトスでは、獣型で荷運びを生業とする種族もおりますので……」
サミアンは興奮気味に身を乗り出し、尻尾をパタパタ動かしはじめた。
「かっこいいでちゅ!」
「お客様ですと、この辺りがよろしいかと」
そう言って店主が差し出したのは小動物用と思われる、小さな赤いリュックだった。
「タミアン、これにちまちゅ! これくだたい!」
はやっ!
サミアンの興奮具合に驚いていると、店主は静かにクリスのほうを見て、「銀貨3枚になります」と告げた。
「銀貨たん枚は、銅貨なんまいぶんでちゅか?」
サミアンが心配そうな顔で、クリスを見上げる。
「銅貨300枚だな」
「タミアン、銅貨1枚ちか持っていまてん」
サミアンは、興奮のあまりピンと立てていた耳を、ペシャンとへたらせた。
「店主、これをいただくよ。このまま持って行くから、包装はいらない」
「ありがとうございます」
「クリチュたま! タミアン銅貨1枚ちか、もってまてん」
「なにを言っている。1日銅貨1枚。おまえは10日も働いたじゃないか? 足りない分は、これから稼げばいいさ」
そう言うとサミアンは、嬉しそうに耳と尻尾を立てた。
「タミアンのリュックでちゅ」
「ああ、初めてのおかいものだな」
「クリチュたま、ありがとうごだいまちゅ」
店主はサミアンの背にリュックを乗せると、ちょうどいいように、肩紐を調整してくれた。
そして、サミアンを抱き上げ、鏡の前にそっと降ろした。
「よくお似合いでございます」
サミアンに赤いリュックはよく似合っていた。
サミアンは、よほど嬉しいのか、何度も角度をかえながら、しばらく鏡の中の自分を眺めていた。
店主からは、大切な銅貨を入れられるようにと、小銭入れをサービスしてもらった。
最初の村の宿といい、アリアといい、みんなサミアンには優しくしたくなるようだ。
クリスは、そこに銅貨を1枚入れてやる。
「これは、おまえがアリアからもらった分だ」
小銭入れをリュックに入れると、サミアンは、その場でピョンピョン飛び上がって喜んだ。
クリスは自分が一番サミアンに甘い自覚があった。
その後は、武器屋で矢の補充を行ったり、露店で買い食いをしたりして、楽しい休日を満喫した。
そして、宿に帰る道すがら、サミアンは、1件の露店の前で足を止めた。
「おねえたん。その赤いリボンはいくらでちゅか?」
そして勝手に買い物をはじめた。
「あら可愛い獣人さんね。このリボンは、銅貨1枚と銅板5枚。でも可愛い獣人さんなら、銅貨1枚でいいわ」
「これくだたいっ!!」
「おいっ! サミアン! どうしてリボンなんか…」
「タミアンのリュックとおとろいでちゅ」
「『おとろい』? ああ『お揃い』、同じ色ってことか?」
「はいっ! ちかも、銅貨1枚でちゅ!」
今度はどうしても自分の小銭入れで買い物したいらしい。
(サミアンがそれでいいなら、まあ、いいか……)




