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サミアンの不思議な肉球~謎のもふもふを拾ったら家族が増えました~  作者: 三国華子


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55.二手に分かれるな

 嫌な予感がしたノインは、サミアンをベンチに降ろして、広場の中心にある噴水に向かって走った。

 水鏡に姿を写すと、ノインの額には、肉球型の痣ができていた。


「な、なんだこれっ!?」


 ノインは、手で水をすくい、額をこすった。

 ノインの作った波紋が消えた水面には、こする前となんら変わらない、肉球の痣がある。

 ノインは、ベンチを振り返る。

 その先ではサミアンが、慌てて視線を反らしている。


「おまえっ! 何なんだよ!」

「ごめんなたい」


 素直に謝られてしまい、ノインは拍子抜けしてしまう。


「これ、何なんだよ?」


 ノインは、先ほどとは違う、落ちついた声でサミアンに尋ねた。


「とれは『ちろ狼のちゅくふく』でちゅ。ノインがちあわてになれるお守りでちゅ」


 サミアンはニコニコしながら、嬉しそうにそう言った。


「はっ? こんなの恥ずかしいだけだろ?」


 サミアンは、ニコニコから一転、口をパカッと開け、悲壮な顔になった。

 

「落ち込みたいのはこっちだ!」

「ちゅくふくなのに……」


 色々最悪な気分だった。

 自分にそっくりなSランク冒険者の凄い男が、引き取ってくれたと思ったら、狼の風上にも置けない奴だった。

 落ち込んでいるところに、自分より小さい奴に慰められ、滅茶苦茶カッコ悪い痣ができた。


「おまえ、もう帰れよ。おまえなんか嫌いだ」


 ノインがそう言うと、額が熱くなり、その範囲が広くなったような気がした。


「えっ?」


 ノインは慌てて、噴水へ走る。


「でかくなってんじゃねぇか!!」


 サミアンは他人事のように、ベンチで首をかしげている。


「くそっ! おまえっ! もうついてくるなよ!」


 ノインは、再び走り出し、広場を抜ける。

 チラッと後ろを確認すると、ベンチにポツンとサミアンの姿がみえた。


「なんだよ…… ついてこないのかよ」


 自分で「ついてくるな」といったのに、本当についてこないと思うと、少し寂しかった。




 そんな二人を建物の影から密かに覗いていた者がいる。

 

「二手に別れるなっ!!」


 もちろん後を追ったクリスだ。

 ノインを追うべきか、サミアンを連れて帰るべきか……

 見ていると、サミアンは、ベンチの上でのんきに昼寝を始めた。

 あの場所でノインを待つつもりのようだ。

 

「みんな放任主義なのかよっ!」


 クリスは、別のベンチに腰かける。サミアンは、200年も一人で生きてきた。クリスが心配しすぎなのかもしれない。

 でも、ただ死ななかっただけだ。

 あの使い古したモップのような姿を「一人で大丈夫」だとは言いたくない。

 ノインにしても、両親を失い孤児として暮らしていた。寂しくないわけがない。


「獣人は、違うのかな?」


 そういえばガインも幼い時に両親を失ったはずだ。


「ガインは寂しくなかったのかな……」


 そう考えると、獣人とか人間とか関係なく、それぞれが孤独に慣れすぎているだけな気がした。

 クリスもかつてはそうだった。

 サミアンとガインに出会い、変わったのだ。

 そういえば、クリスが一人で出ていった時も、ガインは黙って行かせてくれた。だが、刺客に追われると、即座に助けに来てくれた……


「冷たいわけじゃないんだよな」


 ガインはただ不器用なのだ。

 自分も一人でなんとかしてきたから、相手を追うことが最善とは思えないのだ。実際あの時、クリスは自分の意思を尊重されてよかったと思う。

 それでもなお、子供達を一人にしたくないのは、クリスの意思だ。


「ガインだって、自分の意思を押しつけてるじゃないか……」


 クリスはスクッと立ち上がると、昼寝にいそしむサミアンの前に仁王立ちした。

 日当たりのよいベンチで気持ちよさそうに眠っていたサミアンの顔に、クリスの影が落ちる。

 何が起きたのかと、サミアンは目を開ける。


「お、おかあたまっ!?」

「さがせっ! ノインを!」

「は、はいっ、おかあたまっ!!」




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