54.父親じゃない
翌日は、書店や図書館などで熊族の伝記を調べた。
白狼に関しては、700年以上前から記述があった。アルガへ攻め込んだ熊族が、白狼率いる狼族に敗北したというものだ。
その後も何度か二種族の間では争いがあったようだが、熊族は常に白狼の前に敗北を喫したということだった。
だが、白狼そのものに関する新しい情報は、特に得られなかった。
「ガイン、これからどうする? もっと調べるか?」
「いや、伝記を見ても、白狼を神格化するような表現が何もないところを見ると、口伝も期待できないだろうな」
「う~ん、王都に帰るか」
「王都に行くのか!?」
ガインと今後について話し合っていると、ノインが突然声をあげた。
そういえば、ノインがどうしたいのか聞くのを忘れていた。
「ノインは行きたくないのか?」
「狼族は王都へは近づかない方がいいんだろ?」
「わざわざ狼と名乗らなければ大丈夫だ。おまえもおれも目が青いからな」
「タミアンもでちゅ」
(おまえはそれ以前だ)
ガインがそう言うと、ノインは、不快そうに顔を歪めた。
「なんだよ、Sランクなんて言ってもカッコ悪いじゃないか! おまえ、それでも『狼』か?」
ガインは、何も言い返さない。
だけど、表情を変えることもなかった。
「おとうたまはかっこいいでちゅ!」
クリスが、口を開こうとすると、先にサミアンが、耳と尻尾をたてて、怒りを露にした。
「かっこいいもんか! 狼の誇りはどこに行った! おまえなんか、父親じゃない!」
(父親じゃないけどな……)
そう言うとノインは一人で走り出した。ここは市街地だ。
小さいノインの姿は、あっという間に人混みに紛れた。
「探す?」
「いや、少し時間をおこう」
孤児のノインに行く場所はない。この町の子供だから、宿の場所もわかっているだろう。
この件は、クリスの一存でどうするか決めることではないように思えた。
「タミアンもお出かけちてきまちゅ」
「えっ?」
そう言い残し、サミアンまで人混みに飛び込んで行った。
(おまえは、迷子になるだろっ!!)
「サミアンッ!」
「クリス、落ちつけ。あいつらは獣人だ。鼻も利くし、動きも速い。心配はいらない」
「でも子供だ!」
クリスには、ガインの対応が冷たく感じた。獣人は自立が早いというが、人間のクリスには、小さい子供を一人にするのは、心配でしかない。
「なら、探しに行けばいい。だが、見つけてもしばらく様子を見てやれ。なんでもおまえの考えを押しつけるな」
「なんだと! おれがいつ押しつけた!」
ガインは、何も言わない。
いつもそうだ。
「おれ、探しに行ってくる」
クリスは、サミアン達を追った。サミアンはああ見えて動きが速い。簡単には見つからないかもしれない。だけど、動かずにはいられなかった。
「ゼェ、ゼェ、お、おまえ、トロそうなのに、速いなっ!」
「タミアンは狼でちゅから」
「そ、そうか」
ノインは、全速力で走った。
なのに、後ろにはアホ面のままピッタリサミアンがついてくる。
ノインは、街の広場にたどり着くと足を止めた。
「ハァ、ハァ、なんでついてくるんだ?」
「タミアンはノインのおにいたんだからでちゅ」
「おにっ、そうだった。おまえ200歳だったな」
「とうでちゅ、本当はおとうたまも弟でちゅ」
さすがにそれは違和感しかない。
広場のベンチに腰かけると、隣にサミアンが、乗ってきた。
サミアンは、ただまっすぐ前を向いて、広場の様子を眺めている。ノインに、何か言いたくてついてきたわけではないようだ。
「おれ、帰らないから」
「とうでちゅか…… タミアンはかえりたいでちゅ」
「なら帰れよ」
「ノインが帰りたくなったらいっちょに帰りまちゅ」
サミアンは、相変わらず広場を眺めている。時々、美味しそうな屋台飯を手にした人が通り過ぎると、目で追っている。腹が減っているのかもしれない。意識すると、ノインの腹もギュルギュル音をたてた。
ノインは、サミアンを抱き上げ、顔の高さに持ち上げた。
「腹減ってるなら、あいつらの所へ帰れよ。おれ金ねぇし」
「ノインは、ちかたのない子でちゅね」
そう言ってサミアンは、ノインの頭を撫でた。どうしても兄貴面をしたいらしい。
すると、額の辺に何やら熱と光を感じた。
「ん? おまえ今何をした?」
「タ、タミアンは何もちてまてん」
サミアンは、ばつの悪そうな顔で視線を反らした。




