51.父上
(ガインったらいつの間に?)
いやいや、この子は4歳位で明らかにクリスと出会う前の子だ。
それ以前に別にガインとはつきあっているわけではない。
色々な思いが、クリスの頭をよぎった。
「おれは、おまえの父親ではない」
(言い切ったっ!!)
「嘘だ! 母上は『父上はおれにそっくり』って言っていた!」
「おまえの名はなんだ?」
「おれは『ノイン』だっ」
「!!」
その名を聞いたガインは、無言で固まった。
(やっぱりガインの子供かっ?)
「ガイン、心当たりあるのか?」
「いや『ノイン』というのは、戦後唯一生き残った子供の名で、ビスカルディーニ家ではよく使われる名だ」
「ビスカルディーニ」はガインの家名だ。
青い目の狼……
(やっぱりガインの……)
「おまえの父は『セイン』ではないか?」
(違うのかよっ!!)
隣で一喜一憂するクリスを、ガインは不思議そうに見ている。
(なぜ、おまえは冷静でいられるっ!?)
「ガイン『セイン』って誰?」
「おれの叔父だ。一人で里を出ていたのだが、数年前に連絡が途絶えてしまってな」
「嘘だ! おまえが父上なんだろ?」
ノインという子供は、どうしてもガインを父親だと思いたいようだ。
珍しく困った表情のガインが頭を掻く。
「セインと母親はどうした?」
「父上とは会ったことがない。母上は、病気で死んだ」
「おとうたま?」
「なんだ?」
「おとうたまは、ノインのおとうたまではないのでちゅか?」
「おれはサミアンの父だ」
サミアンが嬉しそうにする横で、ノインはガックリと肩を落とした。
サミアンもすぐに気がつき「あっ」といった様子で、振っていた尻尾を下げる……
それが、ノインの気に障ってしまったのか、突然、サミアンの頭を叩いた。
「いたいでちゅ」
クリスは、サミアンを抱き上げ頭を撫でる。
気持ちはわかるが、暴力はよくない。
「おいっ、チビ。うちのサミアンに何してくれてんだ」
クリスの言葉に、全員がたじろぐ。無表情のガインまで目を丸くしている。
「だって、おれの父上なのに、アイツが……」
「ペシッ」
クリスがノインの頭を叩く音が響いた。
「痛いか?」
「いたい……」
「そうか、ごめん」
「えっ?」
「サミアンも痛かった。謝れ」
クリスは大人げなくノインを叩いたが、すぐに謝罪する。その上でノインにも謝罪を求めた。
ノインも涙目のサミアンを見て、自分の間違いに気がついたようだ。
「ごめん、サミアン」
「タミアン、もう、いたくありまてん」
ガインは、なぜか面白そうに肩を揺らしている。
(おれの教育的指導はおかしかったのだろうか?)
部屋の窓から見ていたのか、神父が慌ててこちらにやってくる。
「うちの院の子供が、何かしでかしましたでしょうか?」
帰り際、クリスは金貨5枚を寄付してきたので、神父の腰はひくかった。
「何も問題ない。この子は、おれの血縁のようだ。連れて帰ってもいいか?」
(えっ?)
「やはり、そうでしたか。似ていると思っていたのです。身分証を拝見させていただいて、書類にサインをいただければ、すぐにでも……」
(ひきとるんだ)




