49.全力かくれんぼ
神父は、ガインが動じないのを確認すると、話を続けた。
「白狼は先の戦争において、聖竜様の怒りにふれ、消滅しました」
「消滅? 聖竜というのは、実在するのか?」
「もちろんです。聖竜様がこの世界をお造りになったのですから。世界に数ヶ所確認されている『竜の神域』は、全て聖竜の住みかとされています」
「それでは、白狼はその創造主により無きものにされたと?」
「はい、その通りでございます」
(え?)
「横から失礼いたします。わたくしは、西方の国の出ですが、聖竜教の教義にも、教会の講話でも白狼の話を聞いたことがありません」
クリスは疑問を口にする。教義どころか、歴史上にも、聖竜が白狼を消滅させたなんて聞いたことがない。
「西方には、まだ伝わっていないのでしょう。白狼が消滅したのは、ほんの200ほど年前の話です。聖竜教の長い歴史の中では、昨日のことみたいなものです。西方では、長きに渡り伝えられた教義のみが、伝えられているのでしょう。ここトルクトスにおいても、積極的にこの話にふれることはありません。狼族以外にも白狼を神格化していた種族もおりますので、暴動の火種となっては、聖竜様も悲しみましょう」
(はっ?)
色々納得いかないが、トルクトスの聖職者の中では、それが事実のように語られているのだろう。
神父の表情に迷いはなかった。
ガインは、全く表情を変えない。
神父の話は狼族にとって、簡単に容認できるものではないだろう。だが、この神父に言ってもどうにもならないことを知っているのだ。
「ありがとうございました。大変為になるお話でした」
だが我慢も限界なのか、ガインは、ここで話を締めた。熊族の有識者を紹介してもらうこともしない。おそらく、ここで紹介される「信者」に話を聞いても真実に近づくことはないと判断したのだろう。
そのころ、サミアンは人生初のかくれんぼを満喫していた。
「タミアン、次はおまえが鬼な!」
「わかりまちた! いーち、にー、さーん」
鬼になったサミアンは、子供達を探す。本当は鼻を使えばすぐわかるのだが、それでは面白くない。サミアンは、細かく裂いた布を鼻に詰め、全力でかくれんぼの鬼役に徹していた。
だが、相手はここに暮らす子供達だ。今日きたばかりのサミアンには、簡単に見つけられない。
サミアンは、誰一人見つけられないまま裏庭へとやってきた。
「みつけまちた~!!」
そこには、黒い三角耳の少年が、一人で本を読んでいた。
「ブッ、おまえ誰だ?」
鼻に布を詰めたサミアンの姿に、一瞬驚くが、その後は機嫌悪そうな顔で、そう尋ねた。
「タミアンでちゅ! みなたまとかくれんぼをちていまちゅ。タミアンは鬼でちゅ」
よく見れば、この少年は、かくれんぼのメンバーに居なかった。
サミアンは、ちょっとガッカリしたが、この少年だけ一人でいることが気になった。
「なんで、かくれんぼちないのでちゅか? たのちいのに」
「おれはアイツらとは遊ばない。おれを嘘つき呼ばわりするからな」
「うとついたんでちゅか?」
「ついてねぇよ! アイツらがおれを『狼』だと信じないだけだ!」
少年は、普段からの鬱憤をはらすように、声を荒げた。
サミアンは、その言葉に目を輝かせ、前足を一歩前に出して口を開いた。
「タミアンも『狼』でちゅ」
「それは、嘘だな」
瞬殺だった。




