46.通訳してくれ
クリス達は、次の目的地を熊族の町バルガンに決めた。熊族は、200年前までは、狼族と敵対することも多かった種族だという。トルクトスが獣人の地であった昔から、争い事がなかったわけではないようだ。
王都アルガからバルガンまでは馬で3日の道のりだ。
クリス達は、馬を借りてアルガを出発した。
「熊族と狼族は仲が悪いの?」
「昔の話だ。今は狼族はいないことになっているからわからんが、ボルグのような友人もいるしな」
そういえば、国境の町ベルカの解体所所長のボルグは、ガインに好意的だった。犬だと思っているのかもしれないが、ガインはどうみても「狼っぽい犬」だ。
「そういえば、ガインの家族はどうしているんだ?」
ガインが狼族を「いないことになっている」と言ったことが引っ掛かる。ガイン以外の狼族はどうやって、暮らしているのだろう。
ガインは、思いを馳せるように空を見上げると、ゆっくりと話し始めた。
「おれは、戦後散り散りになった狼族が集まって作った隠れ里に生まれた。両親は、おれが知る限り狼族最後の夫婦だった。父はおれと同じ青い目をしていたから外に出ることもできたが、母は金色の目をした、ごく普通の狼族だった。ある時、里の存在を知られ、討伐隊が来た。捕獲されそうになった母を守る為、父は戦い、母も獣化して戦ったのだが、相手の人数が多くてな…… 2人だけではなく、残り少ない狼族は、その場で全員討伐された。おれは、母に『狼族の血を絶やすな』と言われ、地下室の床の隙間からそれを見ていることしかできなかった」
クリスは気軽に訊いたことを後悔した。想像以上に重い話だった。ガインにとって「人間を恨んではいけない」という一族の教えを守ることが、どれ程大変なことなのか……
ソロの冒険者であることは知っていたが、ガインもまた「孤独」を知る者なのだろう。
「ごめん……」
「かまわない。狼族を調べる上で必要なことだ。まだどこかに隠れ住む一族がいるかもしれないしな」
「ん?」
クリスと2人乗りで馬に乗っているサミアンが、クリスの前で、肩を震わせている。
「……うぅ、うぅ、ぅえっぐ」
「サ、サミアン?」
振り向いたサミアンは、滝のような涙を流していた。
「うぇ~んっ、おどうだばが、がばいどうでぢゅ~」
サミアンの言葉にガインが固まる……
「……クリス、通訳してくれ」
(そっちの意味で固まったのか!)
「お父様が可哀想だってさ」
ガインは、涙を流すサミアンを見たこともないような優しい眼差しで見つめた。
「おれは可哀想ではない。新しい家族ができたからな」
(それ、真顔で言うっ!?)
「たみちくないでちゅか?」
「ああ、寂しくない」
「えへっ」
サミアンはクリスの前でグニャグニャ体を揺らして、全身でデレデレしている。
それにしてもガインはどこまで本気で言っているのだろうか?
なぜかクリスまで赤面してしまう。
(その新しい家族にはおれも含まれているのかな……)
「それにしても、クリスとサミアンの泣き方はそっくりだな。本物の親子のようだ」
以前サミアンの過去を知ったクリスは、泣き疲れて眠ってしまうほど、大泣きした覚えがある。
(あの時のおれも、通訳が必要だったのだろうか?)




