44.重要な儀式
「で、どうするつもりだ? クリスちゃんは」
「クリスちゃんって呼ぶな。セクハラで訴えるぞ」
レオルドの軽口を速攻で返す。
(こういうのは最初が肝心だ)
「叔父がおれを追い続けるなら、おれは正面から立ち向かうことに決めた。逃げていても仕方ない。叔父の悪行を調べあげて、爵位を剥奪させてやる」
クリスがそう言うとサミアンは不安そうに見上げ、ガインは納得したように頷き、レオルドは驚いた顔をした。
「タミアンをおいて行きまてんか?」
「おいて行かない」
クリスの言葉を聞いた途端、サミアンは嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねた。
興奮しすぎて、同じ場所をグルグル回っては止まり、キラキラした目でクリスを見つめ、回っては止まりキラキラ~を繰り返す……
(可愛いが、ちょっと落ち着け)
なぜかずっと目を丸くしていたレオルドは、頭を掻きながら、ようやく口を開いた。
「クリスは、なんかぶっ飛んでるよな。普通の奴が蛇行しながら登る険しい山を、最短距離をものすごい勢いで登っていく感じだな」
「なんだよそれ! おれが、考え無しのアホな奴みたいじゃないか!」
クリスが言うと、それまで黙って聞いていたガインが口をはさむ。
「クリスはいつもそんな感じだ」
フォローしてもらえるかと思ったが、一番期待してはいけない相手だった。
「いつもアホみたいに言うな!」
「クククッ」とレオルドは面白そうに笑う。
「褒め言葉だぞ」
「えっ……」
「ああ、クリスの長所だ」
レオルドとガインの言葉に、耳まで赤くなるのがわかった。
ガインの率直な物言いには、いつまでたっても慣れない。
「あ、ありがとう」
クリスは褒め言葉を素直に受けとることにした。
サミアンはグルグルに満足したのか、クリスの膝に乗り抱っこを要求してきた。
最初の頃は抱っこをねだるのもモジモジしていたのに、クリスが戻ってきたことが、よほど嬉しいのだろう。
サミアンを抱き上げ、ギュッと抱き締める。
「おかあたま、今日はお胸がフカフカでちゅね」
「ん? ああ、もう男のフリはしてもしょうがないからな」
今朝、クリスは一旦宿に戻り、胸を潰すように巻き付けていた布を外した。
叔父から隠れるように生きてきた自分と決別する意味で、クリスにとっては「重要な儀式」だった。
「気がつかなかった。あまり変わっていないな」
ガインの一言で「重要な儀式」は台無しになった……
「悪かったな! どうせ小さいよ!」
「悪いことなのか?」
「タミアンはちいたくてもフカフカちてる方がちゅきでちゅ」
「おまえまで小さいって言うな!」
レオルドは、机を叩いて爆笑している。
クリスは「いつの間に自分の周りは、こんなに色鮮やかになったのだろう」と思った。
こんな風に皆で騒いだり、笑ったり、クリスが気がつかなかっただけで、幸せはもう手元にあったのだと感じた。
クリスの手の甲が熱をおび、痣が小さくなっていく……
(そうか…… 幸せに導く印だから……)
このまま消えてしまうのかと思った痣は、サミアンの足の様な小さな跡だけが残った。
「えっ? これ完全には消えないやつ!?」




