43.刺客
敵の剣がクリスの頬を掠める。
相手は中々の手練れのようだ。外してもすかさず切り返しが飛んでくる。
時々クリスの剣とぶつかる金属音が響くが、短剣しか持たないクリスは、中々間合いに入れない。
背中を反らして相手の剣を避けながら、後方に一回転し、一旦退く。
相手はクリスを逃すまいと、重心を前にずらした。
(ここだっ、)
相手の剣の下を掻い潜り、足元へ滑り込む。すれ違いざまに足を払い、その勢いのまま敵の背後へ抜けた。
そして、倒れた相手の肩甲骨の間を足で押さえつけると、すかさず剣を使う右腕に短剣を突き刺した。
「ウグッ!」
「悪いが、足の腱も切らせて貰うよ」
「ウッッ!」
逃走防止の処置を終えたクリスは下を確認する。
少し手前の路地から、人の争う音が聞こえる。
急いで向かうとガインが、最後の一人と対峙していた。その周りには二人の男が気絶している。
(さすがSランク)
ほっとしたのもつかの間、別の建物の影に、もう一人の刺客を確認した。
手には投げナイフのようなものを持ち、ガインを狙っている様子が、クリスの位置から確認できた。
弓に手を伸ばすが、どう考えても間に合わない。
「ガインッ!!」
するとどこからか、高速の白い塊が飛んできた。
投げナイフを持った男は、真横からの攻撃に、なすすべなく吹っ飛ぶ……
「サミアン?」
後を追ってきたレオルドが、サミアンに吹っ飛ばされた男に拳を入れる。
そして、再びガインを確認すると、やはり相手を吹っ飛ばし、気絶させたあとだった。
ガインと目が合う。
大きな傷を負った様子はない。
ガインは「当然だ」とばかりに、軽く口角をあげる……
(おわった……)
緊張の糸が切れたクリスは、そのまま屋根の上に座り込んだ。
「おかあたま~~~っ!」
クリスを見つけたサミアンが叫ぶ。クリスを引き留めようと、必死の形相なのだろうが、一周まわっていつものアホ面になっている。
クリスは、走りすぎて力の入らない脚を無理やり奮い立たせると、屋根から飛び降りた。
周りには憲兵やら、野次馬が集まり始めた。
レオルドは憲兵に、王都冒険者ギルド所属員に対する傷害行為として、身柄の引渡しを求めるようだ。
だが……
「ダメです。息がありません」
ガインも武器を使わず気絶させたようだが、意識が戻るなり仕込んでいた薬をあおったようだ。
クリスは屋根を見上げ、自分が対峙した敵を確認する。ピクリとも動かない。おそらく同じように薬をあおったのだろう……
勝負には勝ったが、なんとも言えない後味の悪さだった。
(刺客の命も使い捨てかよ。人の命をなんだと思っているんだ……)
クリスが憲兵に運ばれていく刺客達を見送っていると、その場の空気を変えるようにレオルドが、声をあげた。
「とりあえず、帰るぞ。バカども」
レオルドは、クリスとガインにそう言った。
腕の中のサミアンは、撫でられているのに……
サミアンは、必死にレオルドの腕をすり抜け、クリスに飛びついた。
「おかあたま」
「サミアン……」
クリスは、フワフワの体に顔を埋めた。




