41.一人の夜
ギルドを出たクリスは、一人王都の外れにある高台にやってきた。
高所特有の強い風が吹き付ける。
一人で行動するのは、久しぶりだ。
以前は当たり前だったのに、足元を可愛く飛び跳ねるサミアンと、いつも二人を守るように一歩後ろをついてくるガインがいないことが心もとない。
(Aランクになったのに、おれは弱くなった気がする……)
目を閉じて頭を空っぽにする。
重苦しい感情は、頭の中でループしながら、自分を深みへと連れていく。
クリスはこの3年間で、それを学んでいた。
だから普段は、深く考えないことを習慣にしている。
未来は誰にもわからない。
この3年間も、確定していない最悪の結末に振り回されて、体を硬くしていては、前進することなどできなかった。
いつものように、思考を止めようと思うのに、今日はそれがうまくできない。
自分がいなければ、あの二人は追われずにすむ。
このまま2人の前から姿を消すべきか……
先ほどまで見えていた太陽は、いつの間にか沈んで、辺りは闇に包まれている。
答えが出ないまま時間だけが過ぎて行った。
ギルド長室を出ていったクリスを追いかけようと、サミアンはガインの腕の中から脱出を試みる。だがガインは、がっちりとサミアンを抱き直し、それを阻止した。
「どうちてでちゅか? おとうたまっ! おかあたまが一人でどこかに行ってちまいまちゅ!」
ガインは、何も言わずそこに立っていた。
「ガインよ、いいのか? 行かせちまって。明日ここに戻ってくると本気で思っているのかよ?」
レオルドもサミアンと同意見のようだ。
だがガインは後を追おうとは思わなかった。
もちろん、帰ってこない可能性を考えない訳じゃない。
ただクリスを信じる気持ちがガインの足を止めていた。
「一人で全てを抱え込んで生きてきた者にとって、他人を受け入れることは、勇気のいる行為だ。一人の方が楽だからな」
「それがわかっていて、なぜ一人で行かせる!」
ガインの言葉にレオルドが声を荒げる。
「だが、クリスはそんなに弱くない」
レオルドは言葉を失った。
いくら人を見る目に自信があるとはいえ、ここで少し話をしただけではわからないこともある。
ガインはクリスの本当の強さを知っているのだ。
「……おかあたま、帰ってきまちゅか?」
サミアンが心配そうにガインを見上げる。
ガインは、真っ直ぐサミアンを見つめ、口を開いた。
「ああ、きっと」
アルヴェリア王国 ローヴェル辺境伯邸
「エレノアらしき人物は、トルクトスに入った可能性があります」
アルベルト・ローヴェルの前では、ローブで顔を隠した刺客のザイールが片膝をつき、頭を深く下げている。
「トルクトス…… 獣人の国か」
「はっ、トルクトス国内のギルドにも捜索依頼を出しました。我が配下も既にトルクトスに潜入させておりますので、見つかるのは時間の問題かと思われます」
ローヴェル辺境伯は、忌々しげにペンを握る手に力を入れた。
(随分遠くまで逃げたものだ。近隣諸国に比べ、トルクトス王国は我が国との国交が少ない。わかった上でその地を選んだのだろう)
「小娘ごときが! 生死は問わん。あの娘が身につけているペンダントをなんとしても手に入れるのだ!!」




