4. 冒険者ギルド
「薬草採取のご依頼ですか?」
「はい、何かありますか?」
「クリス様はBランクですので、もっといい案件もご用意できますが」
目的地であるトルクトスの国境まであと少しというところで、路銀が尽きた。
サミアンはよく食べる。
宿代も1人分の子供料金が余計にかかり、想定外の出費が続いた。
クリスは途中の町、リトナの冒険者ギルドで、しばらく世話になることにした。
「今日はコイツもいるので」
クリスが足元を指さすと、ネームプレートに「アリア」と書かれた淡い栗色の髪の可愛らしい受付嬢は、カウンターのこちら側を覗き込むように身を乗り出した。
「あらっ、可愛い! 従魔ですか?」
「ちがいまちゅ、タミアンはじゅうまではありまてん」
「あっ、えっ? 獣人ですか? ……犬の」
「ちがいまちゅ、タミアンはおおかみでちゅ!!」
クリスは慌ててサミアンを抱き上げ、口をふさいだ。
冒険者ギルドに入る前に、「犬の獣人」で通すことを約束したばかりなのだ。
(アホなのか? コイツは!)
「いっ、犬の獣人です! ちょっと自分を大きく見せたい年頃みたいで……」
サミアンの代わりに、クリスが答える。
「まあ、タミアンちゃんは、何歳ですの?」
「にひゃくたいくらいでちゅ」
「え? 200歳?」
「に、2歳ですっ!! 自分を大きく見せたい年頃なのでっ!!」
サミアンに喋らせるとロクなことにならない。
普段はよい子なのだが、何故かこの主張は曲げられないようだ。
嘘をつくなら、もっと現実味を持たせればいいのに、そこまでは頭がまわらないようだ。逆にアホな子だと思われていることに気がつかないのが憐れでならない。
アリアは、生温かい目で微笑んだ。
「お子様連れなら、東の森がお勧めですよ。奥地にはBランクの魔獣もおりますが、広大な森ですので、入り口付近はほとんど魔獣に遭遇しません」
「そうか、情報ありがとう」
「ありがとうごだいまちゅ」
無事依頼を受けて、東の森に入ると、サミアンが意外な能力を発揮した。
(いや、むしろ犬であることが証明されたというか……)
「クリチュたま~、こっちでちゅ~」
森に入ると、サミアンは次々と薬草の場所を言い当てた。
種類もかぎ分けられるのか、高値のつく薬草ばかりを探しあてる。
「おまえ、薬草詳しいのか?」
「名前はわかりまてんが、お腹が痛い時はこれを食べる、とかならわかりまちゅ」
(え~、野生児~)
サミアンは、その丸いフォルムからは想像できないが、サバイバルな生活をしてきたようだ。
まかせておけば、思ったよりも早く仕事が終わりそうだ。
「あっ!」
「よし来た!」
そう言って走り出すサミアンのあとを追う。
「ちょうちょたんでちゅ~」
やっぱり、そう上手くはいかないようだ……
サミアンは短い足で、ピョンピョン跳ねながら、ひたすら蝶を追っている。
クリスは、その可愛らしい姿に癒されながら、今後のことを考えた。
「ところで、おまえ、狩りはしたことあるのか?」
「タミアンはおおかみなので、狩りはとくいでちゅ」
嘘臭い……
正直、薬草だけではこの先の路銀が心許ない。できれば、小さな魔獣くらいは狩って帰りたい。そう思ってサミアンにたずねたのだが、相変わらず「狼」だと言い張るばかりで、肝心の狩りの腕はわからない。
奥へ進むか迷っていると、ピョコンとホーンラビットが現れた。
クリスの武器は、弓と短剣。
この距離なら、短剣か……
瞬時に思考を巡らしたクリスが、短剣を手に掛けたところで、白い何かがホーンラビットに飛びかかるのが見えた。
気がつくと、サミアンの足元に、ホーンラビットがねじ伏せられている。
「クリチュたま。ちゅかまえまちた」
サミアンは「褒めて」とばかりに、尻尾を振っている。
「よ、よし。よくやった」
クリスは短剣でホーンラビットにとどめを刺すと、サミアンの頭を撫でた。
「すごいな、サミアン」
正直、この緊張感のない生き物に、あんなに速い動きができるとは思っていなかった。
獣人は身体能力に優れているというが、子供のうちからここまでとは……
「今日はここまでにしよう。明日からは少し奥へ入って小さい魔獣を狩るぞ」
「はいっ! タミアンたくたんつかまえまちゅ」
ギルドに戻り、アリアの担当するカウンターに向かった。
「お疲れ様です。あら? ホーンラビットですね。奥まで入ったのですか?」
「いや、今日は入口付近だけだよ。たまたま遭遇しただけ。はい、こっちが依頼の薬草」
「タミアンがちゅかまえまちた!」
アリアとの会話にサミアンが割り込む。
「あ~、えっと、確かに捕獲したのはコイツです」
「まあ、凄いのね! 将来はSランク冒険者かしら?」
「タミアンは、ちゅぐにぼうけんちゃになりたいでちゅ」
「ちゅぐ…… あ『すぐに』ってことね。すぐは無理なの。冒険者登録は14歳からだから」
サミアンは、口をあんぐりと開け、あからさまにショックな顔をした。
「働いた分は、あとで、なんか買ってやるから」
「はい。クリチュたま」
可哀想なほど、ガックリと肩を落としたサミアンに、アリアは「これはタミアンちゃんの報酬です」と言って銅貨を1枚余計にくれた。
おそらくポケットマネーだろう。今度何か差し入れよう。
ギルドを出てもサミアンは、まだグズグズ文句を言っていた。
「タミアンは、にひゃくたいだから、ぼうけんちゃになれるのに」
「おまえは『犬の獣人2歳』だ。覚えろ」




