38.爆誕
「おかあたま、あとどのくらいで王都につきまちゅか?」
「そうだな、ここからまだ2時間はかかる。疲れたのなら休憩するぞ。あと『おかあたま』はやめろ」
クリス達は無事任務を終え、王都への帰路に着いた。
そして、サミアンは当然のようにクリスを「おかあたま」と呼んでいる。
「クリスは意外と細かいことを気にするのだな」
「細かいことじゃない!! よく考えてみろ! おれはわざわざ男装しているのに「おかあたま」なんて人前で呼ばれたら台無しだろうが。それに、見た目には男同士のおもろい夫婦にみられるんだぞ! おまえそれでいいのかよ」
クリスは、必死にガインに訴えかけるが、ガインはピンとこない顔で空を見上げ、少しの間考えると、クリスを見て言った。
「知らない奴が、おれたちをどう思うかは、おれたちに何か関係あるのか?」
「関係あるだろっ! 大体っ……」
クリスは、言いかけて言葉を飲んだ。
(関係……ないのか?)
他人がどう思うかは、クリスの中でも案外どうでもよかった。
「だ、だけど男装しているわけだし!」
「愛称だと思えばいいんじゃないか?」
「とうでちゅ! おとうたまの言う通りでちゅ」
話がまったく通じない。
この3人の中では、なぜかクリスが異端児だった。
「せめて『おにいたま』にならないか?」
「まだ言うのか……」
そんな問答を繰り返していたら、気づいた時には王都に辿りついていた。
「おかあたま。やっとちゅきまちた」
クリスの意見は通らなかった。
報告の為ギルドを訪れる。すると、相変わらずクネクネした女性が勝手に話をつけ、ギルド長室に招かれた。
「おかえり、サミアン」
「ただいま戻りまちた。レオたま」
レオルドは早々にサミアンを抱き上げ、腕に抱えた。
以前一日中抱かれていたせいか、なぜかサミアンも定位置のようなアホ面をしている。
「フォレストボアの群れの討伐依頼だったな。何頭だ?」
「ブラッドベアが2頭だ」
一瞬、空気が固まる。
ガインはいつも、説明が足りない。
「フォレストボアが、ブラッドベアに喰われたあとだったんですよ~」
クリスはすかさず補足を加えた。ガインはサミアン以上に手がかかる。
「そうか、それは骨が折れたな。ブラッドベアは、さすがにここでは手狭だな。解体所で獲物を確認させてもらおう」
全員で移動する。
周りの冒険者達は、ギルド長とSランクが揃って解体所に向かうのを見て、ガヤガヤと騒ぎ始めた。
解体所に着くと、数人の所員が集まってきた。
「この辺でいいな。よし、ガイン出してくれ」
「ああ」
ガインは、短い一言で済ますと、マジックバッグから2頭のブラッドベアを出した。
「うん。まあ想定内だ」
レオルドは、少し驚いた表情をしたものの、あまり動じた様子はない。
だが所員は違った。ブラッドベアはAランクの中でも上位種で、グリフォンと同じくらいの価値がある。それを2頭同時に持ち込まれることなどあまりないのだろう。
「おお、一体は矢と短剣のみかよ! 相変わらずデタラメだなぁ」
レオルドは感心したように、そう言った。
「うむ。俺の短剣がクリスの短剣に当たり、喉が潰れたようだ。運がよかった」
レオルドは「運がよかった」で済ますのかよ?とでも言いたそうに片眉を上げたが、おそらくガインはいつもこんな感じなのだろう、無言で状態を調べ始めた。
「うん。2体とも矢傷は多いが、ブラッドベアは内臓がキレイなら大丈夫だ。おいっ、換金の準備をしてギルド長室に運んでくれ」
確認を終えたレオルドは、近くにいた解体所の所員にそう告げると、またギルド長室に向かって歩きだした。
「あの、あとは換金して帰るだけなので、サミアンを離してはいただけないでしょうか」
「なにを言う! まだ来たばかりではないか! なぁ、サミアン。あ、おやつあるぞ」
「おやつっ!? おかあたま、タミアンは、ここもうちゅこちにいまちゅ」
(ここに入る前に、人前では言わないって約束させたのに!!)
ここはまだ他の冒険者もいるホールだ。おれが「おかあたま」と呼ばれることに違和感を感じる者も多いだろう。
「おとうたま、レオたまのお部屋に行って、いいでちゅか?」
サミアンは「おやつ」に我を忘れて、ガインのことも「おとうたま」と呼び出した。
ここに、少し風変わりな夫婦が爆誕した……
「バキッ!」
カウンターの後ろでは、クネクネがペンをへし折る音が響いた。




