37.全部バレバレ
「大丈夫でちゅか? おかあたま。今タミアンがてあてちまちゅ」
「あ~、うん」
サミアンは真剣な顔で、クリスに治癒魔法をかけ始めた。
必死な表情に、話しかけていいものかわかりかねたクリスは、その様子を眺めながら考える。
(こいつ、なんでおれを『おかあたま』って呼んでるんだ?)
「ふうっ。なおりまちた」
「あ、ありがとう」
温泉に入った後のように、疲労感まで取り除かれている。
実際に自分が受けてみると、凄まじい治癒魔法だ。
「おとうたまもてあてちまちゅ」
「『おとうさま』とは誰だ」
(ハッキリ言った!!)
「ガインたまは、タミアンのおとうたまになりまちた」
(なんで?)
「そうか」
(納得すんのかよ!)
何事もなかったかのように治癒魔法を受け始めるガイン。
確かにサミアンに訊いてもそれ以上の答えが返ってくるとは思えないが、馴染みすぎだ。
「あの、モナさん。これはどういうことなんでしょう?」
「クククッ、なかなか言い出さないから、いつ訊いてくるのかと思っちまったよ。わたしはただ、母親の記憶がないこの子に『新しい家族』を作ればいいとアドバイスしただけさ」
(それで「おとうさま」「おかあさま」に飛躍する意味がわからない……)
「サミアン、おれは『おかあさま』と呼ばれては困る。せめて『おにいさま』とかにならないか?」
サミアンは、無言で泣きそうな顔になる……
(おれは、負けない)
「いいではないか、別に」
(おまえは「おとうさま」だからなっ!!)
治癒魔法を終えたガインか、肩をグルグル回しながら、明らかに他人事のように言った。
「おれは、女だと思われたくない」
クリスが言った途端、肉球の痣が膨らむ……
(なんでだよっ! 男装してるんだから、困るに決まってるだろ!)
「クリス、おまえさんは女なんだろ?」
「なんで!?」
クリスの焦りが伝わったのか、モナは、両手を上げて、敵意がないことを示しながら、口を開いた。
「わたしには、人には見えないもんが見える。オーラと言ったらわかりやすいかい? 例えばガインの後ろには真っ黒なデカイ狼の影が見える」
ガインは、見えないとわかりつつも、自分の後ろを確認している。
クリスもついつい目を細めて確認するが、何も見えない。
「サミアンのオーラはなぜかボヤけて見える。そしてクリスのオーラは男の物じゃない……」
(最初から、全部バレバレ)
「わたしは特殊な能力があるからわかっただけさ。この子が『おかあさま』と呼んだところで、そう簡単に見破られやしないさ」
「タミアンにもみえまちゅ。モナたまのうちろには、9本もちっぽがある、ちろい狐たんがいまちゅ!」
今度は、モナが目を丸くする。
「ククッ、そうかい。やっぱりおまえは『白狼』なんだね」
そうか……
だからサミアンには、おれが女だということも、ガインが狼だということもわかったのか……
色々腑に落ちて、サミアンに向けて微笑むと、サミアンは嬉しそうに耳をピンと立てた。
「あ、でも『おかあたま』は嫌」
サミアンは、ふたたび泣きそうな顔になった。




