34.新しい家族
「で、何をおしゃべりしようかね」
クリスとガインが出かけると、モナは自分にはお茶を入れ、サミアンの前には山羊のミルクを入れた皿を置いて、話し始めた。
「おかあたまのおはなちが聞きたいでちゅ」
「母が恋しいかい?」
「わかりまてん」
モナは寂しそうな笑みを浮かべると、目を閉じ、何かを思い出すように言葉を続けた。
「名を『ルシエラ』といい、優しい人だったと聞いてるよ。おまえも少しは覚えているんだろ?」
「『ルチエラ』…… タミアンは、おかあたまのちゅがたと、人間を恨んではいけないことだけでちか覚えてまてん」
「そうかい。仲のよかったわたしの母でさえルシエラが子供を産んだことを知らなかった。伝える前に消えたのだとしたら、おまえも少ししか一緒にいられなかったんだろうさ」
「とうでちゅか……」
サミアンは耳をペシャンとさせて、悲しそうにうつむいた。
モナはそんなサミアンの頭をそっと撫でる……
「人型も女神のようだったが、獣型も美しかったと聞いてる。白い炎が立つような、幻想的な姿だったとね」
「タミアンも人型になれまちゅか?」
「ああ、人化に関しては封印とは関係がないかもしれない。人化は人型の親と接するうちに自然に覚えるもんだ。おまえはその前に、母親と離れてしまったのだろうさ」
「どうちたら人型になれまちゅか?」
「母とすごした記憶がないなら、新しい家族を作ればいいさ」
「新ちいかぢょく?」
「ああ、父や母のようにおまえを愛し、導いてくれる。そんな存在に心当たりはないかい?」
サミアンは顔を上げると、青い瞳を輝かせた。
「ガイン、この死骸、爪痕が残ってる」
「これは、熊だな。Aランクとなると、ブラッドベアか……」
(Aランク上位……もう帰りたい……)
「ブラッドベアが村に降りてくる可能性は?」
「ボアが、そこいら中掘り起こしているってことは、食料不足の可能性もあるな。そもそも、ブラッドベアは、こんな人里近くまで来ない」
「……」
(嫌な予感しかしないぞ!)
「なあ、一度村長に確認しないか? 討伐依頼のフォレストボアは、もういないわけだし」
「フッ、なんだ? 怖いのか?」
「怖くて悪いか! おれは今までCランクのゲイルとか相手にしていたんだぞ!」
「そうだな。1頭とは限らんし、村長に相談して、別のパーティーを呼んだ方が間違いないな」
「えっ? あ、そうだな。そうしよう」
クリスはガインがこのまま捜索に向かうのだと思っていた。
だが、そこまで無謀ではないようだ。正確な状況判断ができなければ、高難易度の獲物相手に命が幾つあっても足りない。ソロでSランクまで登り詰めたのは、この冷静さゆえだろう。
(よかった。帰れる)
だが、ホッとしたのも束の間、体に電気が走るような、強者の気配を感じ取る。
「近くにいるな…」
「ああ…… 2頭だ」
(えっ? に、2頭?)




