31.封じられたもの
「おやおや、随分大きな犬だね。まるで狼みたいだ」
ガインを見た老婆は、意味ありげにニヤリと笑うと、核心に迫る言葉を口にした。
「ガインだ。狼族の伝承について調べている。こっちは、パーティーメンバーのクリス。それでこっちは……サミアン、一応獣人だ」
「クリスです。よろしくお願いします」
「タミアンでちゅ。よろちくお願いちまちゅ」
老婆は、3人を上から下まで観察すると「まあ、入んな」と家のなかへと引き入れた。
「モナばあちゃん。コイツ変なんだ。人型にならないんだって」
モナは、赤い瞳でサミアンを見つめた。
「おまえは何者だい? 強い魔力を感じるが、なにか滞っているね」
「タミアンはタミアンでちゅ」
「そうかい。おまえさんの中には何かが封じられているようだ。誰かが封印でもしたのかねぇ。まあ、人化は関係ないと思うがね」
老婆には普通の人に見えない何かが見えているようだ。
封印とはなんだろう? サミアンが自分のことをよく知らないことも、関係があるのだろうか?
「話が逸れた。狼族の話だったね。長くなるかもしれないよ。ニコ、おまえは村に戻ってフォレストボアの情報を持ってきておくれ」
「えー、仕方ないなぁ」
そう言うとニコは、村へと戻って行った。
人払いをしてくれたようだ。
「狼族に起こったことは残念だよ。彼らは我ら獣人を護る為に戦った。人間の支配に変わっても、狐族がこうして村として存続できているのは、狼族のおかげさ」
狼族は他の獣人の間で、概ね好意的に扱われているようだ。
だが、人は状況によりどう変化するかわからない。簡単にガインが「狼族」であることを明かすわけにはいかない。
「白狼について何か知っているか?」
「そうさね。少しなら知っているよ。狼族の守り神。不老不死といわれ、その血族は青い目で、他の狼族よりも大きな体をしているとね」
(完全にバレてないか? これ)
ガインの緊張が伝わる。
レオルドは知っていたが、彼が秘密を守るだけの人格と、武力を兼ね備えていたから話したのだろう。
おそらく、彼以外に秘密を知るものはいない。
「安心しな。通報したりしないさ。狼族には恩がある。それに私が知っているのは、特別な力を持つ白狐だからさ。わたしは見ての通り不老不死ではないが、白狐の一族は寿命が長い。私の母は直接白狼と親交があった」
200年もすれば、人なら何世代も前の話だ。口伝が正確に伝わっているとは限らない。
だが一世代前なら……
「おまえはビスカルディーニの血筋だね。たしか200年前の戦争で幼い子供が一人生き残ったはずだ」
幼い子供。だから伝承が曖昧なのだろう。本来、ガインの家系に引き継がれるはずだった白狼の秘密は、後世に残すことができなかったのだ。
「白狼が消えた理由は母も知らなかった。死の間際まで、身を案じておったがね。そしてこれは、親交のあった白狐だから知り得たことだが、白狼は不老不死ではなく、数百年に一度新しい成獣の姿に移り変わると聞いている」
(移り変わる? だとしたらサミアンは…… ん? 成獣?)
「200年前の戦争の影響で、まかり間違って、仔犬に移り変わるなんてことは……」
「タミアンはおおかみでちゅ!」
ガインは改めて自分の探していた白狼がサミアンだと確信したのか、目を見開いてサミアンを見つめている。
「他に覚えていることはないかい?」
「おかあたまは人型でちた。白いお耳で青いおめめで、おっぱいがおおきかったでちゅ」
(最後の情報はいらん!)




