30.狐族の村カネッサ
狐族の村カネッサまでは、馬で1日の距離だった。夜中に到着となりそうだったので、手前で野営して、翌日の朝向かうことに決めた。
「おれ、なんで無理してでもマジックバッグ買わなかったんだろう?」
クリスは、温かいシチューを食べながら呟いた。
食事は宿で調理済みのものを鍋ごと持ってきた。
乾燥したパンと干し肉で旅を続けてきたクリスは、マジックバッグのありがたみをひしひしと感じていた。
安いものなら無理すれば買えないこともなかった。だが、容量の小さいものでは、大きな獲物も運べないので、後回しにしていたのだ。
今では矢筒型のマジックバッグがあるので、単独行動も快適にできる。
(一人一マジックバッグ……贅沢な。一人は正確にはマジックバッグではないが……)
「もうカネッサの近くだろ? フォレストボアは現れるかなぁ?」
「いや恐らく奴らは村の向こうの山側から来るのだろう」
「そっか。じゃあ今日はこの辺の魔物だけ気をつければ大丈夫だな」
「ああ、おれが見張りをする。おまえたちは寝ておけ」
「じゃあ交代で」
サミアンがなぜか、眉間にシワを寄せている……
そして珍しく真顔で口を開いた。
「魔物はタミアンがやつけまちゅ、おまえたちは寝ておけ」
かっこいいから、言いたかっただけらしい。
翌朝、村に到着すると、村長のダリオが対応にあたってくれた。
ダリオは細身で小柄な男で、年相応に色の抜けた薄茶の耳と尻尾を持つ狐の獣人だった。
「これはこれは、ガイン殿。Sランク冒険者のあなたが、こんな小さな村の依頼を受けて下さるとは」
「調べもののついでだ。気にするな。ボアが出没するのは夜だろう。その前にこの村に歴史や伝記に詳しいものがいたら話を聞きたいのだが」
「はっ? 伝記ですか? それならわが村のシャーマンである『モナ』という老婆がおりますが」
「その者と面会することは?」
「ええ構いません。ニコ、この方達をモナのところに案内してさしあげなさい」
ダリオは周りで野次馬をしていた「ニコ」という子供に声をかけた。
(か、可愛い)
ニコは綺麗な黄金色の耳と先だけ白い大きな尻尾をもつ子供だった。
クリス達は、ニコのあとについて歩いていく。
「おまえ、人型にならないのか?」
「タミアンはこのちゅがたが気に入っているので、人型にはなりまてん」
(ものは言い様だな……)
「ふーん。変な奴。獣型じゃ、お絵描きも、木登りもできなくてつまらないだろ?」
「タミアンは毎日たのちいでちゅ。グリフォンに立ちはだかったりちてあとんでまちゅ」
(それは遊びじゃないぞ!)
「グリフォン? なんだそれ。全然楽しくなさそう」
「たのちいでちゅ!! 危うく食べられとうになったり、チュリルまんてんでちゅ!」
威勢よく反論していたサミアンだが、少し人化できないことが気になっているのか、その後は口数が減っていた。
村の外れまで歩いて、一軒の小さな家に到着した。
ニコは扉をドンドン叩くと、勝手にドアを開け、中に入っていった。
「モナばあちゃん。お客さんだよ」
「おや、ニコかい。ダリオに案内するよう頼まれたのかい?」
「うん。ボア退治にきた冒険者だよ。Sランクだって」
そんな会話が聞こえてきて、奥から白い耳の老婆が現れた。
老婆の瞳は、真っ赤な宝石のような色だった。




