28.白狼
「泣き疲れて寝てしまったな」
レオルドは、ギルド長室のソファーで眠るクリスとサミアンを見つめながら言った。
正確には泣き疲れたのはクリスだけだが、大好きなクリスに抱かれている内にサミアンも寝てしまったようだ。
「200年か……想像もできねぇよ」
「……クリスが初めてサミアンに会った時、サミアンは使い古されたモップのようにドロドロで、瀕死の状態だったそうだ」
クリスの泣き方をみれば、サミアンがどんな状態だったのか想像はできる。
目の当たりにしたクリスほどではないが、胸が苦しくなる。
このノンキで「サ行」も上手く喋れない小さな存在が、自分達が生まれるより前から孤独の中にいたのかと思うと、どうにもならないとわかりつつも、クリスより早くサミアンを見つけることができなかった自分が、不甲斐なく思える。
「本当に、白狼なんだろうか?」
「ガイン、おまえまだ疑っているのか?」
「伝承の中の白狼は、狼族の「守り神」のような存在だ。誰よりも強く優しく美しい狼、それが白狼だ」
ガインがそう言うと、レオルドは確かめるようにサミアンを見て「プッ」と吹き出した。
「クククッ、確かに、こんなちんちくりんじゃ信じられないよな」
「白狼は不老不死だ。だとしたら姿を消した200年前からずっと、この姿のままだというのか?」
「フッ、まあ何でもいいじゃねぇか。おまえの捜し物は見つかった。護るべき対象がな」
ガインは改めてサミアンとクリスを見つめた。
クリスに抱かれ、安心した顔で眠るサミアンを見ていたら、この優しい時間を、素直に守りたいと思えた。
「ああ、そうだな」
「いい顔するようになったじゃねぇか」
レオルドは、若き日のガインを思い出していた。
10年前、自分を狼と名乗ることも許されず、一人で白狼を探す旅に出た誇り高い15歳の少年。
その孤独な後ろ姿に、彼の幸せを願ったものだ。
ガインはクリスを背負い、サミアンを腕に抱えて帰って行った。
その後ろ姿は、以前の孤独な狼の姿ではなかった。
「いい仲間ができてよかったな。ガイン」
目が醒めたら朝だった。
(何をどうしたらこうなる!)
なぜか、クリスはガインの腕の中で目が醒めた。そしてなぜか、サミアンを胸に抱えている。
(馬の上じゃないのに)
「目が醒めたか?」
ガインは、馬上で言ったのと同じセリフを吐いた。
「なんで、3人で寝てるの?」
「宿についたら、おまえがまたサミアンを抱きしめて泣き始めた」
「ガインはなんで、一緒に寝てるの?」
「泣き止まないから、頭を撫でていたらそのまま寝てしまったようだな」
クリスはガバッと起き上がると「顔洗ってくる」と言って部屋を出ていった。
耳の後ろまで赤くした姿に、ガインは、思わず笑みがこぼれた。




