20. 赤い矢筒
翌日、クリス達は王都に向けて出発した。
王都へは馬で移動して7日の旅になる。クリス達は馬を二頭借り、グリフォン討伐のおかげで通行可能になった道を行く。
10年放置された道では、すでに道の補修工事が始まっていて、皆が待ちに待った開通なのだと実感した。
(大きい討伐の影響力ってすごいな。なんだかすごく世の中の役にたった気がする!)
「クリス、武器屋にあったので買っておいた。矢筒はこれを使うといい」
馬で並走していると、隣のガインがマジックバッグからおもむろに赤い新品の矢筒を取り出し、クリスに渡した。
「え?」
クリスの矢筒は、旅に出る以前から使っていた年代物だ。
鮮やかな赤い革で作られた矢筒は、男物にしては少し可愛らしすぎる気がした。
新しい矢筒にはすでに矢が納められている。これでは自分で用意した矢までは入りそうにない。
古い矢筒に戻そうとすると、ガインがさらっと言った。
「古い方は新しい方にそのまま入るぞ」
「えっ? なんで?」
「マジックバッグだからな。そこそこ大きな獲物も持ち帰れるぞ」
「えっ? なんで?」
「だから、マジックバッグだから……」
「じゃなくてっ! なんでそんな高価なもの、ポンッて渡してるんだよ!」
「おれのマジックバッグよりはだいぶ安物だぞ」
(ちょっと待て、コイツの頭の中どうなってんだよ!)
「それに、サミアンのリュックと同じ色だったのでな」
確かにサミアンのリュックと同じ革を同じ色で染色したものだが……
「クリチュたま。おとろいでちゅね」
「え? ああ」
クリスは「こんな高価な物は貰えない」と思った。「自分も実力に相応しくない」とも……
そう思い矢筒を返そうとするが、ガインの声で動きを止めた。
「これは初めてパーティーを組んでもいいと思った相手への餞別だ。これからもよろしく頼む」
(ガインはずるい。そんないい方されたら断れないじゃないか)
クリスは、なんと返していいかわからず口ごもった。
そんなクリスにガインは「やれやれ」とでも言いたげな顔で言った。
「おまえもサミアンにリュックを買ってやったんだろ?」
そうだ。
「銅貨1枚で買えない」と言ったサミアンに「1日1枚だ」と言って買い与えたのは自分だ。
(あの時は確か……)
サミアンが鏡の前でピョンピョン跳ねて喜んで、こっちまで嬉しくなった。
(サミアンのように素直に喜ぶだけでいいのか……)
「あ、ありがとう。嬉しい」
「うむ。それはよかった」
「…………」
なんか、変な空気になった。
「クリチュたま。「あだ」がちいたくなりまちた」
「え? なんで」
「クリチュたまが赤い物を身につけると、ちいたくなりまちゅ」
(それはないと思う)
少しわかったことがある。この痣は、クリスが自分でも気づかないうちに無理をしていることに気づかせる。
そして、まわりの好意を素直に受け入れ、こころがほんのり温かくなると小さくなるのだ。
(おれは別に女の姿に戻りたいわけじゃない……よな)
色々な思考が頭の中でグルグル巡って、自分が本当は何を望んでいるのかわからなくなる。
「クリス、おまえは不器用だな」
(それは認めるけど、ガインには言われたくないぞ!)




