16. 真のSランクとは
「プニプニでちゅね」
「プニプニ言うな」
クリスの痣は、またしても本物の肉球のように膨れ上がっている。
「クリチュたまが、うとをつくからでちゅ!」
「バカ言うな! きのうのおやつ、本当はまだあるのに『もうない』って言ったけど、痣は大きくならなかったぞ!!」
「でも、リボンちゅけたら小たくなりまちた! とれよりひどいでちゅ! おやつもっと食べたかったのに!」
確かに、痣が大きくなる時は、クリスの感情に起因している気がする。
「おれが嘘をついたから……」
クリスはガインの存在を忘れ、思わず呟いてしまった。
「やはり女なのかっ!?」
「えっ!あっ……」
「そうか、おれは狼だ」
「えっ? あっ...…」
(唐突すぎるだろ! おれ、さっきから「えっ、あっ」しか言えないじゃん!!)
ガインはクリスを真剣な眼差しで見つめていた。
「おまえの秘密を知ったからには、おれが真実を証さないのはフェアじゃないだろう。それにサミアンは嘘をついていない」
そう言って、サミアンに視線を移した。
「タミアン、うそついてまてん」
「ああ、すまなかった」
ガインは本当に真面目な男だ。
冒険者はランクが上にいくほど、横柄になることが多い。
Sランクともなれば、自分が偉ぶらずとも、周りが勝手にヘコヘコする。そうされるうちに、人として大切な何かを失うのだ。
過去にレイドで出会ったSランクは、全て自分の手柄のように、クリスの仕留めた獲物まで持っていった。
Sランクになるより、そこに至るまで自分を見失わないでいることのほうが難しいのだ。
そして、ガインはぶれない男なのだろう。確固たる自分を持ち、周りを冷静に見極める。
だから、クリスやサミアンにも誠実であろうとするのだろう。
クリスはこんなに誠実な相手に意地を張っていた自分が、恥ずかしくなった。
サミアンも信頼できると思ったから、3人の間で隠し事をするのが嫌だったのだろう。
「サミアンごめん」
(おまえを「嘘つき」にしてしまって……)
「タミアン、おやつのことは、絶対にゆるちまてん!」
(そっちじゃない!)
そんな二人を眺めていたガインは、面白そうにフッと、口元をゆるめた。
(ガインも笑うことあるんだな)
「クリス、正式にパーティーを組まないか。おれも人と組むのは初めてだが、おまえとならいいパーティになりそうだ」
「えっ?」
ガインはクリスの弓の腕を買ってくれている。単純に行きがかり上ということではないのだろう。
クリスにとっても、信頼できるSランクと組めることは、冒険者を続けるうえで、またとないチャンスだ。
(だけど、もし刺客に見つかったら、巻き込むことになる……)
返事ができずにいるクリスに、ガインは自ら口を開いた。
「言いたくないことは、言わなくてかまわない。姿を偽るにはそれなりの理由があることも理解している。だが、おまえの敵がなんであろうと、おれはそう簡単にやられはしないぞ」
詮索はしないが、何かあれば力になるということだろうか?
(まったく、人柄までSランクかよ)
「ああ、わかった。よろしくたのむ」
カオスな会話が、やっと丸く収まった。しかも最良な形で。
それを察したのか、サミアンがここぞとばかりに口を開いた。
「二人とも、タミアンがうとをついていないってわかりまちたか?」
「ああ」
「あ、うん」
二人に信じて貰えて嬉しいのか、サミアンは嬉しそうに尻尾を立てた。
「タミアンも本当に狼なんでちゅよ!」
「それは嘘だ。狼はそんな丸くないし、足も短くない」
(ガイン、それは正直すぎて残酷だぞ!)




