15. カオス
「「ところで、おまえはどうしてトルクトスに来たんだ?」
サミアンの肉をナイフで細かく刻んでいると、ガインが今さらなことを訊いてきた。
「獣人の多い国なら、この痣の消し方わかるかな?と思って」
当たり障りなく答えたが、サミアンが余計なことを言った。
「クリチュたまは、タミアンと会った時から、トルクトチュに向かってまちた」
2人から疑いの視線を浴びる。
クリスには、同じ場所に長居できない理由があった。とある事情で追われているのだ。
今のところ男装していることもバレていない様子なので、それほど警戒はしていないが、1ヶ所を拠点とすれば必ずボロが出るだろう。
パーティーを組まないのもそれが理由だ。
クリスはうつむいたまま、口を閉ざした。
(まだ、ガインを信用したわけじゃない。それにサミアンはウッカリ口を滑らせそうだ)
そんなクリスの心情を察したのか、ガインは「無理に聞く気はない。人には言えないことの一つや二つあるものだ」と話を締めた。
(まあ、おまえも何か隠してそうだしな)
「タミアンには、かくちたいことないでちゅ」
(だろうねっ!)
まあ、これ以上深く詮索されないのなら、助かる……
そう思った矢先、またサミアンが余計なことを言い出した。
「クリチュたまは、本当は女の子でちゅ」
「なんだとっ!?」
目の前にワイバーンが飛んできても表情を変えないガインが目を見開く。
「とれにガインたまは、本当はおおかみでちゅ」
「なにぃ!?」
サミアンは、なぜか尻尾を振って嬉しそうな顔をしているが、ガインとクリスはお互いを見て固まった。
自分の隠し事がバレた上に、相手の秘密を知ってしまうという、何から話したらいいのかわからない状況だ。
「えっと『狼』って金色の目じゃないの?」
「そうだ。だからおれは犬の獣人だ」
「でも狼でちゅ。タミアンも狼だからわかりまちゅ。とれにタミアンも青いおめめでちゅ」
「いや、おまえは断じて狼ではない! それよりクリスが女というのは…」
ガインは、ちゃっかり話をすり替える。
「女なわけないだろ?」
クリスは思い切り嘘をついた。
それを見ていたサミアンは、さっきまでの嬉しそうな顔から一転、悲しそうに耳を垂らした。
「タミアンは、うとついてまてん」
人の秘密を勝手にしゃべったサミアンが悪いと思いながらも、クリスは結果的にサミアンを「嘘つき」にしてしまったことに罪悪感を覚えた。
(サミアンは、おれが女だって「なんとなく」見破ったんだよな…… だとすると、ガインが狼ってのも……)
「クリス、大きくなってないか? それ」
「えっ?」
ガインに言われ手の甲を見ると、肉球型の痣が膨らんでいた。




