14. 自分の価値
(1度の移動で金貨120枚……そりゃ特大サイズのマジックバッグも買えるはずだ)
ギルドを出て、宿を探すため街を歩く。
「タミアン、おなかちゅきまちた」
そういえばサミアンは、峠で冒険者を助けたあとから、よく眠る。ガインが運んでくれるおかげで、クリスの腕は痛まないが。
痩せた体であれだけの治癒魔法を使ったのだ。体力が落ちているのかもしれない。
「ガイン、先に食事にしてもいいか?」
「もちろんだ。獣型でも小さければ入れる店がある。ついて来てくれ」
ガインの地の利も助かるが、さすがは獣人の町だ。王都はしらないが、この辺は明らかに人間より獣人の方が多い。
サミアンと旅を始めてからというもの、ゆっくり食堂で食事をしたのは、最初の宿だけだ。この国に来たのはサミアンにとっても正解だったかもしれない。
(え? ここ?)
ガインが立ち止まった先には、普段クリスが立ち寄る店とは、格の違う店が建っていた。
「あの~。ガインさん?」
「なんだ?」
「おれたち、ここで食事するほどの持ち合わせが……」
「かまわん。おれのおごりだ」
(言ってみてぇ~!こんな高級そうな店の前でこのセリフッ!!)
「ここは個室もあるからな。サミアンも気兼ねなく食事ができるだろう」
店に入ると、ガインの顔を見たウェイターは、何も聞かずに個室に案内した。
「いつもこんな個室で食事とは、ガインもすみに置けないなぁ」
「なにを勘違いしている? 個室じゃないと、知らない奴に話しかけられてゆっくり食事が出来ないだけだ」
なるほど、Sランク冒険者には有名税があるようだ。
たくさん稼いでも、無駄な出費も多そうだ。
「先におまえの分の報酬を渡しておこう」
席に着くとガインはクリスの前に、重そうな袋をポンと置いた。
「報酬?」
「ああ、グランドバジリスクの討伐報酬の半分で、金貨30枚だ」
「き、金貨30枚っ!? そんなに受け取れるわけないだろう!? おれは両目を潰しただけだぞ!」
クリスがそう言うと、ガインは少し面白くないものをみるように、眉間にシワを寄せた。
「おまえ、ずっとソロなのか?」
「ああ、レイドなら参加したことがあるけど、不正が多いからやめた。ここ2年程は誰とも組んでいない」
「そうか、おまえの弓の腕は、パーティーで活動していたなら、もうとっくにAランクになっているはずだ」
「えっ?」
「先日のグランドバジリスク。おれ1人では難しかった。アレの邪眼の効果は身体能力低下、剣士には一番厄介な能力だ。それに警戒心も強く、弓を一度外せば、2射目以降が当たることはほぼ無い。一度で両目を潰せたからこそ、おれに攻撃の機会があったんだ。それができる弓の使い手は世界に数人。おまえは、もっと自分の価値を知ったほうがいいだろう。そんなんだから、レイドでカモにされるんだ」
(褒められたのだか、貶されたのだか、わからんのだが……)
「クリチュたまは、ちゅごいんでちゅ! ゲイルを1度にタン羽射ることができまちゅ!」
「3羽? 3本同時ということか? それはすごいな」
2人からの賛辞に、クリスはいたたまれない気持ちになった。
(おれは、そんなすごい奴じゃないのに……)
サミアンと旅を始めてから、たった数日で世界が変わったような気がする。
ひとりで旅した三年間には、こんなふうに自分を認めてくれる者はいなかった。
サミアンの孤独を癒していたつもりが、自分が癒されていたことに気がつく。
「あ、ありがとう」
クリスは金貨30枚を、自分への正当な評価として受けとることにした。
目の前には、きれいに盛り付けされた料理がならぶ。
「うまっ! この肉、歯がなくても噛みきれそう」
クリスは、高級肉を噛みしめながら感動していた。
だが、ふとサミアンを見ると、あまり食が進んでいなかった。
「どうした? サミアン?」
「タミアンは、ちいたいお肉をお鍋で煮たのが食べたいでちゅ」
「小さい肉? ああ、ひき肉か」
(それ最初の安宿のメニュー!)
サミアンには、クリスと最初に食べたあの食事が、一番のご馳走だったようだ。




