~第11話~ トーナメント開幕
「皆さん。おはようございます。本日は。学園にお越しいただき。ありがとうございます。」
朝、学園ではそういった放送が流れていた。異世界でこんな例えをするのはどうなのかと思ったが、よくイメージするショッピングモールの案内放送を幾分か聞き取りやすくしたような感じだと氷は妙に納得した様子だった。
門は既に開いており、朝一番開門のときほどではないが、予想どうり誰かの家族が入ってくる。
しかし予想外だったのは両親、両方の祖父母だけでなく、使用人?メイド?のような人たちも来ていて、基本1生徒につき15、多いと20人ほどが来ている。
そんなに多くては入りきれないのでは無いのではないだろうか?とも思うが、さすが中央1の学園と評されるだけはあり、なんだかんだで全員が入ってしまった。
しかし流石に体育館にははいらなかったのか、運動場に即席のコロシアムのようなものが建っていた。
恐らくは土魔法で作り上げたのだろうが、精密さ、迫力、規模、どれを取っても中央随一で、即席とは言ったが、それが嘘なのではないかと思うほどだった。
しかも丁寧なことにそのコロシアムには何重にも分厚い結界が何種類もかけられていた。
「えー、あーあー、皆さんおはようございます。私が、この学園の学園長である、パルテアです。本日は当学園の学生トーナメントにお越しいただき、ありがとうございます。
ですが、皆さんもご存知の通り、当学園は非常に生徒数が多いため、最初からトーナメント方式でやっていると、圧倒的に期間が足りません。なので、まず最初は全員で残り10名になるまで戦ってもらいます。
その第1試合はあと20分後です。
ルールはまた始まる前に伝えさせてもらいます。」
その時氷はと言うと、運動場の隅っこで精神統一や作戦を思い出していた。
(はぁ、緊張するなぁ…、聞いてはいたけど、最初は生き残り戦かぁ、私魔力量は多く無いからそんなポンポンと魔法撃てないんだよねぇ〜…、う〜ん、ちょっとずるいけど、パルテアさんが言ってたヤツをやるしか無いかぁ…、
あんまりギリギリだと焦っちゃうし、もうそろそろ待機室に行こっかな)
氷が待機室に着いた頃、外では放送が流れていた。
「え〜開始10分前になりましたので、ルールの説明をさせてもらいます。ルールと言っても、禁止は何もありません。なんでもありです。ですが、安心してください。ここの結界がその攻撃を受けた人にとって死に至るものなのかどうかを正確に判断し、もし、即死や死亡するものであれば、生徒用観客席に転送する魔法が組み込まれてあります。
以上のルールで残り10名になるまで勝負していただきます。
それでは入場です。」
歓声と拍手だけで圧倒されそうなこの場だが、生徒達は胸を張って入場してくる。
パルテアは先生用の特別席で生徒の入場を見守っている。普通に真剣にプログラム通りに進むように見守っているように見えるのだが、内心凄く緊急していた。
なぜならこれが氷にとってのパルテア以外と初めて戦う、しかもその時のパルテアは本気を出していなかった。
つまりほとんどこれが初戦のようなものだ。
そしてパルテアが一番気にしていることは、この結界のルール。この結界は死亡に至ると判断した場合のみ、転送させる。つまり、相手が無事だとわかっていても、攻撃するその瞬間。相手を殺す覚悟が必要となる。
この世界の奴らは自分さえ良ければいい奴だったり、そもそも勝負するときに手加減するほうが無粋だと教えられてきた人達がほとんどだ、それにこのような学園であればなおさら。
それに対して氷はその覚悟ができるのかという心配があった。だからこそパルテアは作戦を教えたのだが、それが上手くいくとも限らないし、どのみちトーナメントでは覚悟しなくてはいけない。
だが、それと同時に師匠が弟子を信じなくてどうすると考えていた。
「頑張れ…氷…」
―――(うわぁヤバいなぁ緊張してきた…、)
その時開始を告げる合図が入った。
「それでは…、第1試合目始め!!!」
全生徒が雄叫びを上げて戦闘を始める。
もうすでに脱落した生徒もいるようで、1人、1人と少なくなっていった。
「おらぁぁぁ!!」
「うっ…!!!、」
「よっしゃぁぁ!3人目ぇーー!!」
「戦闘中によそ見は危険だぜ!!」
「は…?、」
「くっそやべぇな、みんな強すぎんだろ…、マトモにやってたら消耗しちまうな。
あ、あの女…、俺に恥をかかせた女じゃねぇか…、巷では化物だのなんだの言われてるみてぇだが、俺が殺してやる…!
おらぁぁぁ!!死ねぇぇぇ!!!」
その生徒の魔法がその少女に向かっていく。その刹那。それを凌駕する魔力量の魔法の束がその少女から放たれた。
決して魔法の威力が弱かった訳では無い。あの少女の魔法の威力が異次元を超えていたのだ。
最初に魔法を撃った生徒はもちろんのこと、その後で戦っていた生徒も巻き込まれ、脱落した。
そのせいでまだ開始から6分程度しか経っていないのにも関わらず、半分以上がいなくなってしまった。
「おい…、あの女やべぇだろ……、」
「あ、あぁそうだな、」
「でもよ、やられっぱなしも癪じゃねぇか?」
「あぁ、そうだな…、全員でかかれば行けるだろ!」
彼女の魔法をみた生徒達が争うのではなく、共闘して彼女へ挑んで行った。
「私の目的はあなた達じゃ無いんだけど、」
やはり、彼女から先程のように魔法の束が放たれる。そして、また大量に脱落する。
「よっしゃぁ!!隙あり!!!」
1人の生徒の剣が彼女の首に届いた。だが、彼女の首に当たった瞬間、ガキン!と鈍い音を鳴らし剣が砕ける。
「は…?」
魔法を後ろ向きに1つ構築し、飛ばす、その生徒は消える。
「おいおい、まじでなんなんだよあいつ…、」
「ふざけんな!誰も勝てねぇだろうが!!」
「諦らめんな!あんなたくさん魔法使ってりゃもう時期魔力が枯渇すんだろ!」
「ホントかよ!!!サンダーアロー!!!」
「ファイアトルネード!!!」
四方八方から彼女めがけて様々な魔法が飛ぶ、しかし、その全てが彼女に当たること無く、逆に魔法が飛んできて脱落していく。
「そこまで!!人数が10人となりました!これにて第1試合を終了します!!」
これが、才能の差。
この歳で才能というのは努力ではどうにもならないほどの差となってしまう。努力が無駄だとかそういうことではない。だが、その努力が実るのは恐らく5年ほど後だ。今いくら努力した所で、圧倒的強者には足掻きでしかない。
なんとも惨い話だ。今の今までこの瞬間の為に努力を怠ったことはない、それどころか強者にも勇気を出して立ち向かっていった。それにも関わらず、1つの攻撃すら当てることができず、脱落していく。
それが現実。どうしようもない事なのだ。
(うわぁ…、ヤバかったなぁ〜…、)
そうだ、氷は何をしていたのだろうか?
実は開始直後……、
(えっと水魔法のウォーターウォールで、光の屈折をたくさんやって…、これならみんなから見えないかな?)
そう。なんとパルテアの作戦というのは、開始直後に水魔法で水の壁を生成し、光の屈折を利用することによって、自身を見えなくさせるというズルであった。
だが、勿論そのままでは審判にも気づかれずに脱落扱いされてしまうため、人数が少なくなってから徐々に解除していった。
───(ほっ、よかった、作戦は成功したんだな…、まぁ、ちょっと…いやだいぶズルいとは思うが、ルールには違反してないし、作戦勝ちと言うやつだろう。
にしても、あの少女…、やはり魔王なのか…?あれほど威力の高い魔法を大量に放っておきながら、全くもって魔力が切れる様子も、疲れる様子も無い。
魔王ではなくても、能力持ちなのは確定だな。
氷…、)
急に扉が勢いよく開く。
「す、すいません!学園長!!生徒達から第2試合以降の欠場を訴えています!!」
「あ〜、確かに、そうだよなぁ〜…、あんなの見せつけられたら無理だよなぁ…、」
そう。氷と彼女を除き、残った者達は皆、自分の力で身を守ったわけではない。どちらかといえば、力に自信がなく、強者を前に恐怖に怯えていた者達だった。
「まぁ、欠場したいものは欠場させろ。」
「ですが、そうすると、2試合目で終わってしまうことになりますが……、」
「そうだな、その2人を除いてもう一度やり直せばいいんじゃないか?どうせ時間は余るんだし、」
「そんなんでいいのですか…?」
「あぁ、こうするしか無いだろ」
「わかりました。ではそのように伝えておきます。」
「保護者の方には私から放送で伝えさせてもらうから関係者だけでいいぞ」
「わかりました…、」
今度はゆっくり扉を閉めて立ち去って行った。
「はぁ…、どうなるんだこれ……、」
───それから数分が経ち、舞台の点検も完了した。あとは両者が戦うのみ。
(第1試合目を見てて思ったけど、もしかしなくても能力持ちかなぁ、魔力無尽蔵とかそんなんだと無理すぎだけど…、)
「それでは第2試合を始めます。第2試合目始め!!」
「……ごめんね、」
この会場においてその声が聞こえたのはたった一人。氷のみが、彼女の消えゆくような小さな声を聞いていた。
彼女は急に氷に向けてではなく、空に向けて魔法を放った。
───「は…?結界が……、どうなって…、」
「不思議ですかぁ?学園長。」
「ム、ムカール様…、なぜこちらに…、」
「なぜってそりゃ子供の勇姿は見ておかなければいけないでしょう?まぁ、私はあの様な化物一度も子供などと思ったことはありませんが。
いやぁ昔殺さないでおいた甲斐がありましたよ。まさかこんな所で役に立つとは…、」
「……、せっかくの娘さんの晴れ舞台ですが、これは危なすぎます。トーナメントを一時中止にします。」
「そんなことできるとでも?」
「やらなければ死んでしまう可能性もあるのですよ!!」
「えぇ、だって殺す気ですから。」
「…やはりそれが狙いですか、でしたらなおさら止めるしかありませんね。」
「できるならどうぞ?」
「今すぐにでも中止させます。」
「ですからどうぞ?早くしないと死んでしまいますよ?」
「……、なんで…!動かない!!」
「ハハハハハハハハハ!!!!!!やはりこれはあなたにも効くのですね!!!」
「それは…!」
「そう、これはこの国が保管している神級アーティファクト、囹圄縛石…、神級アーティファクトの管理を任されているのはあなただけでは無いんですよ。」
(くっそ!マジで動けない!!)
「私と一緒にこの勝負の結末を見ようじゃありませんかぁ!!
…いや?一方的な殺害でしょうかねぇ!?
そうだ!あなたのお弟子さんが負ければ学園長の座をお譲りになられるんでしたよね?
ついでにあなたの管理する神級アーティファクト、慧眼水晶も貰っておきましょうかぁ!!!!」
「まだ、負けると決まった訳ではない……。」
「往生際が悪いですねぇ…、あなたの行動一つ一つがあなたのお弟子さんを死なせる原因になったんですよ!!!」
「私はあの子を信じます。」
「ちっ、これだからお前らのようなバカは嫌いなんだ。
良いでしょう。共に見守ろうではありませんか……、トーナメントをね。」




