~第10話~ 計画と選択
氷が屋敷の自分の部屋でくつろいでいると、勢いよく入口のドアが開く音がした。
それだけで焦っていることがわかる。
氷が様子を見に自分の部屋から出ていくと、こちらに向かってきていたパルテアと丁度鉢合わせる。
「氷!」
「どうしたんですか?そんなに慌てて、」
「とりあえず、氷が無事で良かった。」
何が何だかわからず氷はただ困惑するしかなかった。
「すまない氷。アルトルがさらわれた。」
「え?、、もしかして私のせ……
「違う。氷のせいじゃない。私のせいだ。目の前にいたのに救えなかった。」
「それは、、」
「落ち着いて聞いてくれ。恐らくさらった奴らは魔族だ。魔族側はアルトルを傷つけるつもりは無いらしい。恐らくはこの中央に少しでも妖力の使い手を残さない、それに加え、増やさせない事がさらった目的だろう。」
「…、」
「なぁ、氷はどうしたい。厄災と戦うか、逃げるか」
氷はパルテアの真剣さと焦りが混じった顔に別の何かを感じ取った。
「逃げるの中にパルテアさんは入ってるんですか。」
パルテアは何も言えなかった。氷の疑問に答えられないというのもあるが、必死で隠していたはずの覚悟、それをやすやすと見破られた驚きもあった。
「パルテアさんも一緒逃げないなら私は戦います。」
立場上、全てを捨てて逃げる事はできない。
仮にできたとしても、厄災で全てが消え去るまでにパルテアが逃げた事を知り、他国の知り合いに連絡する奴がいるかもしれない。そうなればパルテアに居場所は無い。
考え過ぎだと思うかもしれないが、現にそういった行動をしそうな奴は山程いる。
「…死ぬかもしれないんだぞ。」
「私は死にませんし、大切な人は全て守ります。」
パルテアは了承するほか無かった。それに、否定する事もできなかった。それが彼女の決断だったからだ。
「わかった。でももし、危なくなったらネオジムと合流して逃げろ。」
「わかりました。でもそれは最終手段です。」
「あぁ、わかった。
明日、中央全てに避難勧告を出す。あとトーナメントは中止にしたいが、多分無理だ。無理なら来週に早める。
恐らく必要最低限の荷物だけまとめれば3週間で、厄災の範囲外に逃げれるはずだ。」
「わかりました。それで私はそれまでどうすればいいですか?」
「さっきも言ったが、アルトルをさらったのはこの街に妖力使いが居ない状態を作るためだ。
だから恐らく、学園の妖力教師も中央から去るだろう。
私も妖力には詳しくない。だからネオジムをすぐに中央へ向かうように指示する。
今の地点からだと5日ほどでつくはずだ。
ネオジムなら妖力の基礎くらいは知っているだろうから教えてもらってくれ。」
「わかりました。じゃあネオジムちゃんと会うのはトーナメントの1日後くらいですかね?」
「多分な、じゃあいまから魔法で呼ぶから少し待っててくれ。」
そう言うとパルテアは氷から離れて魔法でネオジムと連絡をとる。
「聞こえるか、ネオジム。」
「師匠どうしたの?」
「魔族が敵対した。と言っても私たちに直接手は出さないようだが、人質を使い、妖力使いに対して圧をかけ、協力をさせないつもりだ。」
「え?本当?干渉無しはあっても敵対はしないと思ったんだけど、、」
「…ちなみにネオジム、お前は氷と一緒に厄災から逃げるか?」
「多分、氷ちゃんは戦う事を選んだんでしょ?なら私も戦うよ。」
「…わかった。中央に戻ってきてくれ。作戦はまた伝える。」
「わかった。すぐ戻る。」
パルテアはネオジムに連絡をし終え、氷の元へ戻っていく。
「氷。ネオジムはいまから戻ってくるらしい。今日は部屋で休め。」
「わかりました。」
「あと、そうだな、生徒は今週全員休みにさせる。表向きは避難の準備だが、私的には氷の強化が目的だ。
という訳で、いまから力に関する本を屋敷中から探してくる。あわよくば妖力の本もあればいいが…」
「あの、そういえばちょっと思ったんですけど、もしかしたら私の刀妖怪に効くかも知れません。」
「どういうことだ?」
「私の刀はもともと妖刀だったんですよ、今は神刀ですけど、なので効くかなって…」
「なるほどな。それはあるかもしれない。なら剣術の本も探してくる。これから大変だからな、これが最後の休みだと思ってくれ。」
「わかりました」
そうしてパルテアは2階へ向かい、氷は自分の部屋へ向かう。
(はぁ、まさかこんな事になるとは…、私の青春はまた上手くいかないのかな…
ん?なんで今またって思ったんだろ?
青春…?たしかにそうだ、私はこっちに来た時に若くなったと感じたんだから、当然青春はあったはず……、
なのになんで思い出せないんだろう…。
授業中に思い出した記憶もそうだ、なんで母親の事を忘れ、、というより前の世界での記憶があんまり、無い?)
「うっ…!」
氷は突然頭が痛くなった。
その痛みは収まる事を知らず、どんどん増していく。最後の意識でベッドへ倒れ込み、気絶するかのように寝てしまった。
────部屋の中でスマホの電話がなっている。
「うっ…、あれ?私何して…、ってか電話なってるし、」
──は電話に出る。
「もしもし?」
「もしもし──さんですか?」
「はい、そうですけど、」
「今から病院に来てもらえますか?」
「……!、わかりました。」
──は慌てて玄関に向かう。玄関に着き、靴を履く。そしてドアに手をかける。ドアを開ける。
すると目の前にベッドで横になっている男性を見つけた。
「お父さん!大丈夫!?」
「あぁ、──か、、ごめんなぁ、父さんはもう長くないみたいだ。
なぁ──、」
──は涙をこらえながら静かに聞く。
「大切な人との関係っていうのは相手を守るだけじゃ無くて守ってくれる事を言うと思うんだ。だから、そういう人は大切にするんだぞ。」
「うん……!」
──がそう返事した瞬間、病室が消えた。
辺りは真っ白だった。
だがしかし、真っ白のはずなのに、どこか草原を感じさせる風と、葉擦れやせせらぎの音、それに優しい花の匂いが漂っていた。
「──…、」
気づけば、せせらぎの奥に授業中に思い出した女性と、先程の男性が立っていた。
「──ちゃんはどうしたい?」
「どうって、何を…?」
「大切な人を守りたい?大切な関係を守りたい?」
「…、私はその両方を守りたい。」
「だが、──。その道は辛いぞ。思い出したくないことも思い出さなきゃいけなくなる。それでも──はその道を進めるか?」
「私は正直進みたくない。思い出したくない。過去のことはわからないけど、なんとなくそんな感じがする…。
でも今の私には本当の友達が居る。私一人じゃない、例え私が辛くなってもきっと支えてくれる。だから大丈夫、」
「そう……、それじゃあ私達はもう必要ないわね。──ちゃん元気でね」
「──、後悔しないようにな、」
「うん…!ありがとう。お父さん、お母さん。」
二人はせせらぎの奥に立ち込める霧の中に入っていった。もう姿は見えない。───
誰かに呼ばれている気がする。
「……!ひ……!氷!」
「う…ん……?」
「大丈夫か?なかなか起きてこないから心配で見に来たら…、何か嫌な夢でも見たのか?」
氷は汗を大量にかいており、目は泣きはらしたように赤くなっていた。
「大丈夫です、少し変な夢を見て…、」
「まぁ、無理もないだろう。とりあえずシャワーを浴びてきなさい。そんなんじゃ気持ち悪いだろ」
「ありがとうございます。」
そう言って氷は部屋を出てお風呂場へと向かう。パルテアはよほど心配なのか氷の後についていき、脱衣所の前で止まる。
「着替えは用意しておくからな」
氷は頷き、余裕無く服を脱ぎ捨て、風呂場のドアを閉め、シャワーを頭からかける。シャワーついでに洗顔も行い、シャワーを止め、お風呂場から出る。
すると、脱いだ服は既に片付けてあり、脱衣所にはタオルと着替えがおいてあった。
タオルで丁寧に体を拭き上げ、着替えて脱衣所の扉を開け、パルテアの元に向かう。
「氷、さっぱりしたか?」
「はい、ありがとうございました!」
「とりあえず、朝はゆっくりしておきなさい。修行は昼頃からでも始めればいい、焦る必要はない。」
「わかりました。」
「私は朝食の用意をしてくる。ここで待っててくれ。」
パルテアが居間を後にする。その事を確認した氷は夢について考える。
(あれは何だったんだろう。でもなにかきっと大切な事な気がする。)
氷は気疲れしてしまい、柄にもなくぼーっと過ごしていると、もうそんなに時間が経ったのだろうか?パルテアが料理を持って戻ってきた。
こちらの世界では呼び名も違うが、いつものパンと卵焼きとサラダではなく、スープとヨーグルトとフルーツが運ばれてきた。
スープは見た目的にわかりやすいが、ヨーグルトは匂いや色、形でそう思った。フルーツというのはりんごのような梨のようなで、何かは良くわからなかったが、とりあえずそんな様なフルーツだった。
氷はフォークとスプーンを使って食べる。心無しかいつもよりゆっくり丁寧に食べている気がする。
「ごちそうさまでした。」
「どうだ、落ち着いたか?」
「はい、かなり…、」
「まぁ、なんだ、あまり無理はするなよ。」
「でも私、強くならないと…、」
「そうだな、だが、無理にも2つ種類がある。
できる範囲で無理をするのと、無理に無理をするのだ。
本当に無理だと思ったら無理って決めていいんだ。今は無理でもいつか頑張れば届くくらいまで行くかもしれない。」
「えっと…?」
「あ〜いや、すまん、私こういうの苦手なんだ。まぁ要は出来ることと出来ないことをちゃんと見分けろって事だ。多分。」
「なるほど?」
「まぁ、わからなくてもいいんだ!」
パルテアは勝手に結論づけ、話を終えてしまう。そして、パルテアは氷の朝休憩も兼ねて、仕事に向かった。本来は仕事で仕方なくという風なはずなのだが、弟子の制服姿を見るがために遅刻した人間からすれば、仕事はそこまで重要では無いのかもしれない。
そしてパルテアは学園の会議場へと向かった。いつもは職員室で予定確認程度の会議なのだが、今回は事態が事態であるため、特別に会議場をつかい会議をするようだ。
パルテアは4番目であった。先にいた3人はパルテアの部下である。
「パルテアさん!おはようございますっす!」
「おはようございま〜す」
「学園長おはようございます。」
「3人ともおはよう。昨日は急に呼び出してすまなかった。」
「大丈夫っすよ!それより…、厄災っすか…」
「厄災とか嫌だね〜…、」
「また大勢死ぬのでしょうね…。」
「何を言ってる。その為に昨日無理にでも通したんじゃないか。昨日は緊急会議だったために人数も少なく、私達が有利だった。だが今日はムカールも来る。絶対にうるさいぞ。」
3人がそれぞれうんうんと納得した後、段々と先生が入ってきた。そして最後には例のムカールもいた。
そして全員が揃った事を合図に会議が始まった。
「学園長!!なぜトーナメントを中止にするのですか!!!」
早速ムカールが噛みついてきた。
「厄災が起きるというのにそんな事やってられません。」
「そんな事ですか!?現に親からもなぜトーナメント中止にするのかと、クレームが来てるではありませんか!!!しかも厄災?そんな事が起きるとは思えませんね!!!!」
「信じる信じないはご自由にしてください。
ですが、あなたが信じないからといって全員が助かる訳でも厄災が無くなる訳でもありません。」
「はぁ、あまり言いたくはありませんでしたがねぇ…!!あなた余りにもお弟子さんを優遇しすぎではありませんか!?どうせ自分の弟子が勝てないから厄災だとか言ってトーナメントを中止にさせたいのでしょう!?」
「はぁ、そこまで言うなら結構です。トーナメントはやりましょう。ですが、来週の月曜日に開催とさせていただきます。それならまだ避難も間に合いますので。」
「やるなら良いのですよ!!ですが、もしあなたのお弟子が負けてしまえば、あなたは優遇を認め、学園長をやめて下さいね?」
その瞬間、学園長をやめるという思いがけない言葉に場が凍った。
「今謝れば、辞めるというのも考え直し……
「わかりました。もしあの子が負けたのなら私は学園長をやめましょう。」
さらに思いがけない、というより、そもそもそんな言葉などこの国に存在していなかったかのような驚きようで、皆がパルテアを見つめる。
「そ、そうですか!その覚悟はよし!ではトーナメント、楽しみにしていますよ!!」
「え〜では、他に意見がある方はいらっしゃいますか?」
もちろん手があがるはずもなく、会議はあっけなく終わった。今度は始まりの逆で、ムカールを先頭にし、全員がぞろぞろと外に出ていく。だか、パルテアとその部下の4人は残ったままだ。
「学園長をやめるまで言っちゃってよかったんすか?」
「まぁ、別に学園長やらなくても金には困らんしな」
「そんな悲しいこと言わないで下さいよ〜」
「そうですよ。今の学園があるのはパルテアさんが学園長だったからなんですから。」
まぁ、大丈夫だろと笑っているパルテアを前に3人は呆然と立ち尽くすしか無かった。
そして、パルテアは屋敷に戻り、氷を呼ぶ。案外と顔色が良くなっており、安心するパルテアをおいて、修行をしましょう!とせがむ氷。
それから剣術、魔法、魔術を徹底的に修行していった。さすがに妖力についての本は無かったようで、パルテアは教える術が無く、ネオジムの到着を待つ事を決めた。
そんなこんなで日々は早く進んでいき、明日はトーナメントの日という夜までやってきた。
「緊張するか?」
「はい、少しは…、」
「まぁ、せっかくのイベントだ、未来がどうとか気にせずに楽しんでこい。」
「はい!!わかりました!!」
「よし、それじゃあ明日勝たなきゃいけないし、早く寝るぞ」
2人は就寝した。時計の針は1秒1秒を確実に刻み、1分となり、1時間となる。そのカチッカチッと言った音が妙に心地よい。
日はどんどん昇りついには光がなくともなんとなくであれば確認できるほどに明るく、美しい空へと変わっていった。




