~第12話~ 怪物、化物と言われた少女
開始の合図の後、彼女の放った魔法が会場に張ってあった結界と相殺し、壊れる。
本来であればその結界のお陰でただ脱落するだけで良いはずだが、破壊された今、脱落は死を意味する。
「私はあなたを殺す。死にたくないなら死ぬ気で私を殺せ。」
「…、」
彼女から50を超えるであろう魔法の束が飛ぶ。そして、先の戦いでは気づかなったが、彼女は詠唱をしていない。無詠唱魔法を使っていることは確かだか、それにしてもあまりにも魔法の発動が速すぎる。
「顕現…!」
魔法が届く瞬間、氷は神刀を顕現させ、魔法を全て切り刻む。彼女の物量や魔法発動の速さに目がいき、氷が弱く見えがちだが、氷もまた天才の領域に足を踏み入れている。
(なるほど…、確かに強いけど、魔力量と魔法の発動の速さ以外はパルテアさんのほうが強いな)
今度は魔法をいなすだけでなく彼女に向かっていく。その途中にも魔法がいくつも飛んでくる。それを全て神刀で捌き切る。
(やっぱり思ったけど、魔法撃つ暇無いなぁこれ)
彼女との距離が2mほどまで縮まり、氷は刀に意識を集中させる。
刀をふるい、その刀は彼女に当たった。だがしかし、神刀でさえも彼女に当たった瞬間に砕けてしまった。
氷はとっさに彼女との距離をとる。
「あなた死にたいの?」
「いや?死にたい訳無いじゃん」
「じゃあなんで刀の棟で切ろうとしたの…、そんなんで殺せるとでも思ってるの…!」
「それを言うなら君もでしょ?さっき近づいた時点で魔法を放てば殺せたかも知れないのに。」
「は…?」
「そっか…気づいてなかったんだ。根から優しいんだね。」
「優しい?そんな訳無いでしょ…、私は怪物なの、化物なの!!ふざけたこと言わないでよ!!!」
彼女から先程とは比べほどにならないほどの量の魔法が放たれる。
「ウォーターウォール!!」
氷の周りに数十メートルの水の壁が出現する。その水の壁は荒れ狂う滝のように激しく揺れ動いている。
彼女の魔法が当たり、その魔法を打ち消していた。だが、1つの魔法がたまたまその荒れた水面に弾き飛ばされ、彼女に向かう。
その魔法は速く、動く隙を与えなかった。
「うっ……!」
(なるほど、自分が撃った魔法でも効くんだ。)
彼女に魔法が当たった際発生した土煙が段々消えて見えるようになってきた。
「はぁ…、これは使いたくなかったのに…、」
少量の土煙の隙間をぬって彼女の顔を見ていた。その瞬間なにか彼女が言ったように見えた。なにかの魔法発動なのだろうか?でも無詠唱魔法がほぼノータイムで使えるのに、そんな事する意味が無いはずだ。
そしてまた彼女が口を開いた。
「慷慨憤激」
彼女からとんでもない量の魔力が放出された。普通、魔力はよほど魔力に敏感な生物か、魔法を使わない限り感じることは出来ない。だが、今回はその魔力量から会場の全員が魔力を感じ取ることができた。
膨大な魔力が会場内を飽和した。
その瞬間、空が暗黒に染まった。暗いことも不気味だが、何より不気味なのは暗黒に感じるのに、暗黒であるはずなのに、光は入ってくるし、太陽の心地よい暖かさも感じる。
氷がその場で立ち止まっていると、彼女が手を伸ばした。と、思ったらいきなり氷は壁まで吹き飛ばされた。いきなりの事で受け身もとれず、壁に衝突してしまった。
(今…、魔法がゼロ距離で発動した…!?どういう事?普通魔法は自分から2mぐらいまでしか発動できないはず…、それが能力?)
またも少女が手を伸ばす。
そして、氷の腹部らへんで魔法が急に発動する。
「かはっ…」
氷は自身の血反吐を拭い立ち上がる。
(手を伸ばしてから発動まで大体6秒か…、それに今のところ大量に撃ってくることはないし、遠距離発動だと大量には撃てないのかも)
氷は右足で壁を蹴り、急速に彼女に近づいていく。その間に刀のスキル自己修復を発動させる。彼女は猛スピードで迫ってくることにも驚いたが、刀が直っている事にも驚きを隠せずに、体が固まってしまう。
そのままもろに氷の蹴り上げをくらい、高く上がってしまう。
氷も地面を蹴り、彼女に接近する。
接近している事に気づいた彼女は今度は先程とは違い、大量の魔法を展開し、撃つ。
氷も刀を使い、魔法をいなしていたが、空中であったために、1発魔法をくらって吹き飛ばされてしまった。しかし今度は受け身をとったため、地面衝突のダメージは最小限に抑える事ができた。
(う…、流石にあの魔法何回もくらってるとヤバいなぁ…、まだ、大量魔法はいいとして、遠距離発動してくる魔法が厄介だなぁ。それに彼女にダメージを与えられないし…、
もしかして魔法しか効かないのかも…、でもあの魔法量と発動速度に付き合ってられないし、どうすれば……、)
そして彼女も受け身をとり、着地する。氷と彼女の距離は先程より近くになったが、依然遠いまま。
またもや彼女が手を伸ばす。氷もそれを理解していた為、なんとか発動させまいと接近していくが、突然顔面の少し前で魔法が発動した。
氷も早めに反応し、スライディングのように滑り、姿勢を低くし直撃は避けられたものの、かすり傷を負ってしまった。
(危なかったぁ…!!、でもこれでわかった。遠距離発動するには発動地点までなにか魔力か式を動かさなきゃいけない。だから手を伸ばしてからタイムラグが発生するんだ、でもどうしよ…、それがわかった所で見えないんじゃ意味がな…、、そっかアレを使えば見れるかも、いや、やってみるしか無い!)
氷は距離をとる。いままで接近戦にしか持ち込もうとしなかった相手が急に距離を取ったことに彼女は警戒していた。
だが、警戒したとて、彼女のやることは変わらない。なにをした所で自身の間近で発動された魔法を躱す事は不可能。そう考え、彼女は手を伸ばし、式を近くまで移動させる。
式が氷のあと数メートルという所まで移動したその時。
「ここだ!!!」
氷が刀をふるい、見えないはずの、感じ取れないはずの式を一刀両断した。
「え…?なんであなた見えて……、」
「見えてはないけど、それより…、次からその攻撃はくらわないよ?」
彼女はそれを否定しようと、手を伸ばし、何度も何度も遠距離発動をしようとする。しかし、先程と同様に発動する前に斬られてしまう。
その状況に彼女は焦りを感じていた。いや、どうだろう?むしろ安心していたのかも知れない、期待をしていたかもしれない。私を殺してくれると。
だが、彼女はまだそれに気づいていない、いや気づきたくなくて、気づいていないフリをしている。
氷はこの攻撃されない間に距離を詰めていく。それに気づいた彼女はまた手を伸ばした、しかし、行ったのは遠距離発動ではなく自身の近くで大量に魔法を発動する方。魔法の量は先程よりも60ほど多く発動されていた。
それを氷は切り刻みながら前へと進む。そして魔法も目に見える物だけで残り30個となった時、氷は気づいた。彼女がまた手を伸ばしている、そして既に自身の腹部に近くに式があるという事に。
氷は流石に対応しきれずに、魔法をくらってしまい、吹き飛ばされた。また距離が開いてしまった。
(うっ…痛ったぁ…、まじかぁ…、大量の魔法に紛れさせてたのかぁ…、でもやっぱり種類が少ないね、こういう応用はあるけど、それに遠距離で発動しようとしてる時は魔法の制度も落ちてる。
…、一か八か、やってみるか。)
彼女はまた大量に魔法を発動させ、遠距離発動に意識を向ける。氷はまた魔法をいなしながら距離を詰めてくる。今度は腹部ではなく背後へと式を回す。次も決まる、そう確信した。
「なるほど、ここでしょ?」
氷は前方の魔法を切ると同時に刀を振り抜き、一回転し、式も斬ってしまった。
「なんで…、」
「言ったでしょ?もう二度とくらわないって、まぁさっきくらっちゃったけどさ」
「なんで、あなたはそんなに気楽で居るの…?自分が殺されてかけてるのに…、」
「君は私を殺すって言ってるけど、君から殺意は感じない。どっちかと言うと仕方なく嫌嫌やっているようにしか見えない。」
「嫌嫌…?は…?そんな訳ない…!
私は怪物と蔑んできた人間を…、違う、それだけじゃない、なにも助けてくれずに哀れみの視線だけ送ってきた人間も、私を利用しようとする人間も、この世の全ての人間を恨んでる!
だから人間を殺すときに情なんて生まれないし、現に私はあなたを殺すつもりなの!!だから死にたくないなら私を殺す気で来いっていってるの!!!」
彼女は先程よりも120ほど多く魔法を展開する。合計1000と少しほどであろうか?こんな大量な魔力、普通であれば捌ききれずに死んでしまう。だが、氷は違った。
今までとは違う。刀をしまい、目を閉じる。
「この魔法さ、発動した後、全く制御してないんだよね、一か八かやってみるしかない。」
氷は両手を向かってくる魔法へと伸ばす。そして、魔法ではなく、自然に存在している魔力と捉える。それはつまり、誰であってもその空気中に漂う魔力を制御できるはずである。そんな馬鹿げた理論を作り、魔力を制御しようとする。
しかし、魔法は止まらない。1発が、すぐ近くの地面をえぐる。また1発が頬をかすめる。
また1発、また1発と近くのギリギリに着弾する。
「ごめん…、」
魔法が真っ直ぐ氷目掛けて飛んでくる。
「なにがごめんなの?」
「…え?」
魔法は氷の眼前で止まっていた。その他の大量の魔法も同様であった。空中で停止している。
「ちょっとごめんね!よいしょっ!!!」
氷が眼前にあった魔法を掴み、彼女へと投げた。それは見事に彼女に当たった。
彼女はその場に仰向けで倒れた。
「ねぇ、お願い。あなたならできる。私を殺して。」
「なんで?」
「私はこれ以上生きられないの…。私はあなたを殺すことを命じられた…。それは奴隷契約の魔法で必ず達成しなければならない。もし達成できなきゃ魔法が発動して死ぬの。
でも私、あんなクソ共の魔法で死にたくない……。せめてあなたの手で殺して。」
「やっぱりあれそういう魔法だったんだ。壊しておいて正解だったね」
「壊す…?壊すって…」
「さっき魔法を当てたでしょ?あれで壊した。」
「…、はぁ、もっと早くあなたと出会えてたらなぁ……、私の周りに1人でも仲間が居てくれたらなぁ…、違うか…、親は味方してくれた。でもアイツに殺された。目の前で殺された…。」
「誰に」
「ムカールってやつだよ。
でももうどうでもいい。やっぱり私を殺して。あなたにまで迷惑をかけちゃう。また迷惑をかけちゃう。親以外で私のことを唯一認めてくれたあなただからこそ、死んでほしくない…。だから殺して。」
「そんな事言わないでよ。そんな震えた声で言って…、本当は生きたいんでしょ」
「私が生きたいかどうかなんて、どうでもいいの。私は怪物、化物。忌むべき存在。存在こそが罪で悪。私が死ねばみんなが幸せになる。今更普通になんてなれないし、今更普通に生きれたとしても幸せにはなれない。」
氷が膝をつき、彼女の手をとり、握る。そして泣きそうなのを必死で我慢した、苦しい震えた声で言う。
「だから…、そんな事言わないでよ…。
だったら私があなたを普通にしてあげる。私があなたを幸せにしてあげる。だから一緒に生きよう?」
「そんなこと…、言ったって……、」
「私が君を守る。私を信じて。」
彼女の中から抑えていた感情が湧き上がってくる。それは自分を否定することで教えていた己という存在。15の頃に殺された両親との記憶。もう忘れていた当たり前の権利。それら全てを否定せざるを得ない状況を作った人間への憎しみ。
「なにこれ……、もうわかんないよ…、私は存在しちゃいけないのに…、存在してたら迷惑をかけちゃうのに…、なんでこんな感情…。もう捨てたはずなのに……。」
「いいんだよ、もう自分を否定しなくて。私が君を肯定してあげる。」
────「そんなに追い詰めないで大丈夫…!世界が敵になってもお母さんとお父さんがあなたを肯定してあげる。」
「そうだぞ、俺もお前を信じてる。
それに、俺達だけじゃない、きっといつか。
お前を肯定してくれる王子様が現れて、全てから救ってくれるよ。」────
「私…、生きたいよ……!」
「じゃあ一緒に生きよう…!」
氷と彼女は抱き合った。お互いにお互いを抱きしめて、いままでこらえていた涙もついにこらえきれなくなった。
氷はなにか彼女に自分と似ていると感じたのかも知れない。たとえ産まれた世界が違っても、人間はそこまで変わらない。
人間は汚く醜い、自分ですら汚いし、醜い、そうやって考えながら生きてきたからこそ通ずるものがあったのかも知れない。
氷と彼女で違ったのは支えてくれる人が1人でもいたかの違い。
ただ、それだけである。
会場内の静寂を破るように放送がなる。
「おい!!なにをやっている!!!!化物!!!!なぜ今まで生かしてやってきたと思っている!!!!!早くそいつを殺せぇええええ!!!!!
……そうか、お前がそういう態度ならもう良いさ!主に逆らった罰だ!!!醜く朽ち果てろぉぉおおおお!!!!!!!」
──「いや普通にそれはお前だよね?」
「は?誰だ!!お前は!!!」
「お、ネオジム!」
「お、じゃないよ!師匠!何やってるのさ!氷を頼むねって伝えたでしょ!?こんな雑魚にやられちゃって!」
「はぁ?誰が雑魚だって!!?」
「お前以外いないだろ!ねぇ師匠こいつ殴って良い?」
「ああ、殺害未遂に、違法な奴隷契約、アーティファクトの自己利益のための無断使用。これだけ証拠もそろっている。どうせ死刑だ。」
「わかった。ねぇ、私久々にムカついてんだよね。ふん!!!」
ネオジムが放った拳はムカールのあばら骨を砕き、息をするだけで苦しい状態になっていた。
「う…!!!!あ゛…!!!!」
「はい、師匠。アーティファクトの効果は切ったから。」
「すまん、ネオジム。」
「とりあえず謝罪は後でたっぷり聞かせてもらうから、兵士呼んできて!私は氷とあの子の所に行ってくる」
「わ、わかった。」
──「うっ……、」
「え、だ、大丈夫?」
「いやぁ、流石に他人の魔法の主導権奪うのは相当負担かかるみたいだね…、もう、やらないように……しないと………、」
「ちょ、ちょっとしっかりして!ねえ!私を守ってくれるんでしょ!」
ネオジムが会場の観客席の真ん中辺りにおる放送室の窓を突き破って飛び降りてきた。
「氷!!大丈夫…じゃなさそうだね…、とりあえず回復魔法かけるから!ヒーリング
あなたはそこまで傷は深くないみたいだね、とりあえず良かった。」
「私のせいで…、」
「違う。って、氷なら言うと思うよ?」
「でも……、」
「とりあえず休みな。スリープ
おーーーい師匠!!!!」
ネオジムと同じように兵士を呼んでムカールを任せたパルテアが放送室から飛び降りてきた。
「ちょっと運ぶの手伝って!あと師匠の屋敷の部屋もう1人分使わせて!」
「わかった!」
そのまま氷と少女はネオジムとパルテアに運ばれ、パルテアの屋敷へと向かった。




