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【異世界転生】理想の執事を目指します  作者: 夜空のスピカ
幕間
179/216

アルムとアン4


 ― 翌日 ―

 

 ピエリスとエレナを連れ、アルムさんの元へと向かっている。

 城壁の外と言っても、それほど離れているわけでも無い。 

 なので特に迷う事も無く辿り着く。


 まだ距離は離れていたが、玄関の前に3人の人影が見える。

 更に近づいて行くと、言い争いのようなものが聞こえてきた。


 何かあったのかと焦りを覚える。

 僕が飛び出そうとすると、ピエリスが腕を引き止める。


「待ってください。緊急を要してはいないようなので、ひとまず様子を見ましょう」

「……そうだね」


 確かに危険な状況では無い様なので、話をこじらせるよりは一旦様子を見た方が良いかもしれない。


 3人のうち1人はアルムさん、もう2人は大人の男性で知らない人物だ。

 その2人は、それなりに整った装備をしているので、アルデーヌ家の関係者かもしれない。


 完全に盗み聞きとなってしまうが、状況を把握したい。

 少し後ろめたくはあるが、あちらの会話に耳を傾ける。


「儂等に奴隷になれというのかッ!」

「おいおい、人聞きの悪い言い方は止めてくれよ爺さん」

「そうだぜ、御当主様は家も仕事も失うアンタ等に助け舟を出そうってんだ」

「アンタ等のせいで大事な取引が失敗したっていうのに、本当に優しいお方だよ」

「ふざけるなッ!」

「いったい何が不満なんだ? 住む家も仕事もこれまで通りじゃないか」

「御当主様のご温情に泣いて感謝するべきだろ?」

「ああ、確かにこれまで通りここで暮らし、同じように働く事が出来るだろうさ」

「その通りだ。この契約書にサインするだけで良いんだ」

「だがッ! 家賃代に土地と家畜のレンタル料を払えば、生活費だけでギリギリでは無いか!?

 これでは奴隷の生活とほとんど何も変わらんッ!!」

「……はぁ、じゃあ逆に聞くが、今後の当てはあるのかい?」

「…ッ……それは……」

「ま、よく考える事だ。ただし、そう時間は無いけどな」

「…………」


 2人がこちらの方へ移動してきたので、鉢合わせしないように身を隠してやり過ごす。

 2人が遠く離れて行くのを確認し、いまだ玄関の前で呆然としているアルムさんの元へ移動する。


「こんにちは」

「おや、こんにちは」

「すみません、実はちょっと前に着いていて、先ほどのやり取りの一部を聞いてしまいました」

「ははは、構いませんよ」

「あの2人はやはり」

「ええ、アルデーヌ家の者です。酷い契約の話を持ち出されましてね……」


 そう言うと、アルムさんが疲れたように笑う。

 

「立ち話もなんです、どうぞお入りください」

「ありがとうございます」


 中に入ると、20代半ばくらいの女性がいた。

 少しアンに似ているので、母親かな。


「いらっしゃい、お客様?」

「ああ、すまんがお茶を入れてくれ」

「わかったわ」


 案内された席に座ると、長居するのもアレなので、早速本題に入る。


「すみません、結論から言うと、お力にはなれませんでした」

「……やはり、そうでしたか…」

「話を聞いておきながら、すみません」

「そんな顔をしないでください。貴方が気に病む事ではありませんよ。

 むしろ、こんな話を聞かせてしまい、こちらこそ申し訳ない」


 辛い立場だろうに、こちらに気を遣って笑った顔を見せてくれる。


「…少し言いにくい事なのですが」

「…?…はい、なんでしょうか?」

「もしも行く当てが無いのであれば、フェニックス領に来ませんか?」

「……フェニックス領…確か、少し前に新しい領主を迎え、名も変えたあの土地ですか?」

「はい、新しく牧場を作る案がありまして、経験者なら好待遇で歓迎します」

「それは本当ですか!?」


 先ほどまでの疲れ切った様子から一転、勢い良く話に食いつく。


「…え、ええ。まだ家畜も用意できてませんが、先に住んでもらって構いません」

「……失礼を承知で確認させて頂きたいのですが、金銭面の詳細などは?」

「相場が分からないので、詳しくは領主代理のジェードと話し合う必要があります。

 ですが、こちらの認識としては、用意した環境に住み込みで働いてもらうというものです。

 なので、生活に困るような状況にはならないはずです。

 後は、実際に働いてみて改善して欲しい点があれば、遠慮なく相談してください」


 簡潔にだが説明すると、アルムさんがテーブルの上で手を組み、頭を乗せて目を瞑る。

 ……なにぶん急な事だったので、大事な金銭面の詳細については決まってはいない。

 やはり、こんな説明では悩ませてしまうだけだっただろうか。


「……わかりました…是非とも儂等を雇って頂きたい」

「…え?……ご家族に相談しなくても良いのですか?」

「当ても無い儂等には、今2つの選択肢しか無いのです。

 一見これまで通りに見えても、実際にはアルデーヌ家の下で奴隷の様な生活を送るか。

 貴方の言葉を信じ、見知らぬ土地に希望を見出すか……ならば答えは決まっています」


 アルムさんが覚悟を決めた眼差しを向けてくる。

 僕もこの覚悟に答えねば。


「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします」


 今日、ここに来るまでに実は少し憂鬱な気分だった。 

 

 〝どうして助けてくれないんですか〟

 〝そんな助けならいらない〟


 そんな何かを言われる覚悟をしてきたのに、アルムさんは文句の1つも言わなかった。

 本当に強い人だ。


 彼らがもう、理不尽な目に遭わない環境にしなければ。


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