奇跡が起きた
遅れて申し訳ありません。勢いだけで書き始めて落ちが決められませんでした。
なぜか、アレクサンドライト家はレオンハルトが継ぐことになった。
公爵位を継ぐはずだった王子が、修行僧になると王宮を出てしまった。そして公爵家を空位にしておくわけにもいかなかったからだ。
「天は私を見はなしてはいなかった」
感動の涙を隠さないレオンハルトに、ライオネルは困惑の色をあらわにしていた。
徐々にだが、王子が修行僧になると入信してしまった団体の正体があらわになってきたからだ。
極めて狭量で危険思想の持ち主が教祖をしているらしい。その宗教団体は各国で徐々に勢力を広げつつある。
隣国では、それに関して猟奇殺人事件まで起きている。
さらに別の国では国家転覆の計画を立てているとも。そんな宗教に王族までもがかぶれてしまうとは、由々しき事態としか言いようがない。
そして、由々しき事態となった人たちがほかにもいた。
「トルマリン領」
公爵家を降りたレオンハルトに下賜されるはずだった領地の名を切なげにつぶやくアレクサンドライト公爵だった。
「次の爵位返上の時はどの土地になるにしろ、トルマリン領ほどいい土地は与えられまい」
滝涙を流して、己とその一族の不運を嘆いている。
「いっそ、アレクサンドライト家はあいつの代で断絶した方がいいのかもしれない」
そう息子の様子を見ながら言う。
「そうですわね、血筋ならローズマリーがいますから、そちらにつなげてもらえば」
公爵夫人も同意する。
実の親の言葉とも思えない非道な言葉を、非難する気も起きないライオネルだった。
嵐の時代がくる。
おそらく、このままでいけば宗教戦争といった事態に陥るのは目に見えている。この国を含めて周辺諸国でどれほどの血が流れるか、空恐ろしいくらいだ。
そんな悲観的な国の未来などどこ吹く風で、次期公爵決定とはしゃいでいる馬鹿を見る目も冷たくなろうというものだ。
「とにかく、早急にあのにやけ面を何とかしなければなりませんわね。今は悲嘆のどん底におられる陛下達の神経を逆なですること請け合いですわ」
ローズマリーの冷静な言葉にライオネルも頷いた。
修行僧になると出ていった王子があの宗教団体にどう使われるか、考えるだに恐ろしい。
「心配するな、ライオネル、私だってわかっている」
ふいに振り向いてレオンハルトは胸を張った。
「かような淫祀邪教の徒になった王子が再び王家に迎えられ、ましてや公爵家を与えられるなどあり得ない。ゆえに私の地位は安泰」
ライオネルは滑るようにレオンハルトの傍らに寄った。
「お前は」
食いしばった歯の隙間からこぼれる吐息のようにその言葉を吐く。
「全く理解してないよな」
ライオネルの両足を払い床に倒れたその金色の後頭部を憎々しげに踏みにじった。