第5話 異世界人へ襲撃を伝える方法は?
皆さま、こんにちは、こんばんは!
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます!
第5話では、レンが異世界で初めて「自分にできること」を見つけ始めます。
剣も魔法も使えない主人公ですが、AIの分析と自分の観察力を武器に、少しずつ周囲から信頼を得ようと動き出します。
そして物語は、いよいよ村を巻き込む大きな戦いの気配へ――。
今回も、現実的なAIとの掛け合いと、少しだけクスッと笑えるやり取りを楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第5話をお楽しみください!
建物の中へ入ると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
外より少し薄暗い。
木で組まれた梁。 壁には動物の角や地図らしきものが掛けられ、大きな机が一つ置かれている。
村の集会所、といった雰囲気だった。
白髭の男が椅子へ座る。
リシアたちも左右へ並び、全員の視線が自然と俺へ集まった。
(……面接か?)
(履歴書も志望動機も持ってきてないんだけど。)
白髭の男が穏やかな声で話し始める。
当然、一文字も分からない。
「……。」
俺は苦笑いしながら首を横へ振った。
「分からない。」
すると男は少し考え込み、今度はゆっくり、区切るように話す。
「…………」
「…………」
「…………」
(速度じゃないんだよな。)
(日本語じゃない時点で詰んでる。)
ガルドが腕を組み、大きくため息をついた。
困っているのは向こうも同じらしい。
その時だった。
リシアが机の上へ木炭を置く。
紙を広げ、簡単な絵を描き始めた。
丸い顔。
棒みたいな体。
……俺だった。
(画伯だ。)
(味はある。)
リシアは棒人間の隣へ森を描き、狼を描き、最後に村を描く。
そして俺を指差した。
「レン。」
俺も絵を見て理解する。
「ああ。」
森。
狼。
村。
俺は何とか伝えようと、木炭を借りた。
地面。
丸。
光。
そこへ落ちる棒人間。
(隕石みたいになった。)
違う。
描き直す。
空。
丸。
棒人間。
下へ矢印。
(いや、降下作戦か。)
リシアがじっと見ている。
恥ずかしい。
俺は諦めて、自分を指差し、空を指差した。
「俺。」
空。
「俺。」
空。
全員が空を見る。
(違う違う違う。)
白髭の男が何かを呟く。
ガルドも真剣な顔で頷いている。
(なんか変な誤解されてない?)
リシアだけは少し考え込んでいた。
青い瞳が何度も俺と空を行き来する。
やがて彼女は静かに頷いた。
「…………。」
何か納得したらしい。
(何を納得したんだ。)
怖い。
その時、外が少し騒がしくなった。
「!」
誰かが慌てて建物へ飛び込んでくる。
若い男だった。
息を切らしながら必死に何かを叫んでいる。
部屋の空気が一変した。
ガルドが立ち上がる。
リシアも弓を手に取る。
白髭の男が険しい表情で何か指示を出した。
村人たちが次々と外へ走っていく。
(何だ?)
(また狼か?)
俺も外へ出る。
門の前では村人たちがざわついていた。
その先。
荷馬車が一台止まっている。
車輪は壊れ、荷物は散乱。
御者らしき男が青ざめた顔で必死に説明していた。
ガルドたちは荷馬車を調べ始める。
俺も近付いて見る。
木箱。
布袋。
そして――
地面に残る、大きな足跡。
(……これ。)
見覚えがある。
俺は思わずしゃがみ込む。
《AI。》
画面を見えないように隠し、小声で尋ねる。
《この足跡、昨日の狼と同じ種類か?》
少し待って文字が表示される。
『画像が不鮮明なため断定できません。』
『ただし、大きさと爪痕は類似しています。』
『推測ですが、同種の可能性があります。』
(やっぱりか。)
さらに画面へ文字が現れる。
『補足。』
『足跡の数が多いように見えます。』
『群れの規模は昨日より大きい可能性があります。』
レンの背中を冷たい汗が流れた。
昨日の数でも危なかった。
それ以上となれば――。
その時。
リシアが俺を見つめていた。
俺と。
足跡を。
交互に見ている。
まるで、
「何か知っているの?」
そう問いかけるような視線だった。
リシアの青い瞳が、まっすぐ俺を見つめていた。
俺と。
足跡を。
何度も交互に見る。
(……気付かれた。)
さっき俺は、足跡を見た瞬間に反応してしまった。
普通なら初めて見る魔物の痕跡だ。
なのに俺は、何か知っているような顔をしてしまった。
(まずいな……。)
俺は何でもないように首を振る。
だが、リシアは視線を逸らさなかった。
その時、ガルドがしゃがみ込み、地面の足跡を調べ始める。
真剣な表情だ。
何人かの兵士も周囲を警戒している。
どうやら、この足跡は村にとっても良くない知らせらしい。
(伝えたい。)
(でも言葉が通じない。)
俺はポケットの中でスマホを握った。
《AI。》
《群れが来る可能性を伝える方法は?》
すぐに返事が表示される。
『推測です。』
『言語が通じない場合は、絵や数を使う方法が有効です。』
『ただし、理解される保証はありません。』
(やるしかないか。)
俺は近くに落ちていた木の枝を拾う。
そして地面へ大きく丸を描いた。
村。
その少し離れた場所に、狼を一匹描く。
さらにもう一匹。
三匹。
四匹。
五匹。
最後は描くのが面倒になって、たくさん線を足した。
(分かれ……!)
ガルドたちが集まってくる。
俺は狼の集団から村へ向かって、大きな矢印を描いた。
「……!」
ガルドが顔色を変える。
白髭の男も地面の絵を見つめたまま動かない。
リシアだけが、俺の顔を見ていた。
「…………。」
静かな声で何かを尋ねてくる。
意味は分からない。
でも質問なのは分かった。
俺は強く頷く。
「うん。」
「来る。」
言葉は通じない。
それでも何度も頷く。
「来る。」
「たくさん。」
両手を大きく広げて見せる。
ガルドたちは顔を見合わせた。
やがて白髭の男が大きな声で叫ぶ。
その瞬間だった。
村中が一斉に動き出す。
鐘が鳴る。
カン――!
カン――!
村人たちが家から飛び出し、荷物を抱えて走り始めた。
子どもたちは大人に連れられ、畑にいた人たちも急いで村へ戻ってくる。
門では兵士たちが柵を補強し始めた。
(伝わった……?)
いや、半信半疑なのかもしれない。
それでも備えることを選んだらしい。
その時。
リシアが俺へ近付いてきた。
そして俺へ一本の短剣を差し出す。
「……。」
「え?」
革の鞘に収まった、小ぶりな短剣だった。
護身用だろうか。
俺は自分を指差す。
「俺?」
リシアは小さく頷く。
(貸してくれるのか。)
俺は両手で受け取った。
ずしり、とした重みが伝わる。
ゲームみたいな軽さじゃない。
本物の武器だった。
その瞬間。
《AI。》
頭の中で呼びかける。
もちろん返事はない。
慌ててスマホを取り出す。
(危ない危ない。)
もう癖になってる。
画面を開き、小声で話す。
《短剣、使えると思う?》
数秒後、文字が表示される。
『推測です。』
『未経験者が戦闘で使用することは推奨できません。』
『味方を誤って傷つける危険があります。』
「だよな……。」
納得しかない。
すると続けて新しい文章が表示された。
『提案。』
『あなたが最も価値を発揮できるのは、戦闘ではなく観察と分析です。』
『無理に前へ出る必要はありません。』
レンは思わず笑った。
「そこだけはブレないな。」
AIらしい答えだった。
だが、その言葉を聞いて少し肩の力が抜ける。
戦えなくてもいい。
今の自分にできることを探せばいい。
そう考えた、その時――。
村の外。
森の奥から。
「オオォォォォン──!」
昨日聞いたものよりも、低く、長い遠吠えが響いた。
一匹ではない。
二匹でもない。
森のあちこちから、次々と返すように遠吠えが重なる。
村人たちの表情が凍りつく。
ガルドはゆっくり剣を抜いた。
リシアは一本、静かに矢をつがえる。
そしてレンは理解した。
昨日の襲撃は、ただの始まりだったのだ。
第5話ご覧いただきありがとうございます!
今日のお昼ごはんはショート動画で見た桃のカプレーゼを恥ずかしながら作ってみました笑
たまにはこういうオシャレなものを作るのって気分が良いですね!
とても美味しかったので皆様も是非!
次回第6話もどうぞよろしくお願いします!




