9.保科 勇気2
翌朝、派手に寝坊をした。
学生時代に陸上で鍛えた足のおかげで、なんとか出社時間ギリギリに滑り込むことができた。
とはいえ、今日も鬼のような仕事量だ。昨日よりもさらに帰りが遅くなりそうだ。
クタクタになって家に帰り、シャワーを浴びる気力もなく泥のように眠る。
その翌日も、似たようなものだった。
しかし、明日はようやく休みだ。
シャワーを浴びてさっぱりしたところで、棚の上に置きっぱなしになっていたスマートフォンを思い出した。
「しまった、完全に忘れてた……」
明日は休みだし、さすがに交番に届けに行くか。
それにしても、電話一本鳴らないとはどういうことだ。落とし主は探していないのだろうか。
通知がないか、画面を覗き込んでみる。
『田中 有紀』
不在着信とメッセージの通知が一件。
まあ、知るわけもない名前だ。これは折り返すべきか?
うーん、と少し悩んだが、やはり明日交番に持っていけば警察がなんとかするだろう。
とりあえず、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出して開ける。
今日は休み前夜。ちょっとお高い、新しいやつだ。
せっかくだから写真でも撮っておくか。
俺は自分のスマホを構え、テーブルの上のビールに向けてシャッターを切った。
パシャリ。
「なんだよ、指が入ってるじゃねえか」
画面の端に、青白い指先のようなものが写り込んでいた。
持ち方が悪かったか。俺は軽く舌打ちをして、もう一枚撮り直した。
休みの日くらい、ゆっくり寝たいよな。
交番に持っていくのは、昼くらいでいいだろう。
ビールを飲みながら、視線は棚の上のスマホに向いていた。
たぶん、若い女の子の携帯だ。
ちょっとくらい中を見ても、バレないんじゃないか?
わずかな酒の回りを言い訳にして、俺は他人のスマホを手に取り、写真のフォルダを開いた。
「……なんだ、これ」
そこに写っていたのは、学生服を着た中学生くらいの男の子だった。
えー、なんだ。これ男の携帯かよ。
文句を言いながら、画面を横にスライドする。
次の写真。
男の子の裸、次は顔や腕に赤黒いアザができていた。
さらに焼け焦げた写真。
「うわ、グロ。これ完全に合成とかじゃねえの」
気味が悪くなり、もう閉じようとしたが、指が滑って流れでもう一枚スライドしてしまった。
あれ。
写っていたのは、壁紙に設定されていたあの可愛い女の子だった。
さらにスライドする。
女の子の裸の写真が、まぶしいほどの笑顔だ。
これは見てはいけないもののような、自然と指がスライドする。
女の子の足に、痛々しい巨大なアザができている。
うおー、どういうことだ、これ。
背中を嫌な汗が伝うのを感じながら、恐る恐る次の写真へと指を滑らせた。
最後の一枚。
コンクリートの階段の下のような場所で、その女の子が首を不自然な方向に曲げて、倒れていた。
「…………」
そういう嗜好の奴が作った、合成写真か?
そうに決まっている。でなきゃ、こんな気味の悪い画像を保存している意味がわからない。
俺は逃げるようにアプリを閉じ、スマホを棚に戻した。
変なものを見た。
その不快感を忘れるように、俺は冷たいビールを一気に喉へと流し込んだ。




