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拾ったスマホ ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第二部

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34.小林 真希1

「ごめんなさい、ごめんなさい」


 空き教室に、掠れた謝罪の声が虚しく響き渡る。


 床にうずくまる小柄な男の腹を、健太の硬いローファーが容赦なく蹴り上げた。


 鈍い音がして、男がカエルのように不様なうめき声を漏らす。


 何が楽しいんだろうな。


 私は窓際の机に腰掛け、スマホの画面をスクロールさせながら、ちらりとそちらへ視線を投げた。


 鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにして、床に這いつくばって謝り続ける男。


 ああ、でも。


 ちょっと面白いかもしれない。


「健太ー。そういえば、昨日の変な携帯覚えてる?」


 私は画面から目を離さずに声をかけた。


「落ちてたやつか」


 健太が男の背中を踏みつけながら、面倒くさそうに答える。


「それ。なんかあの着信音、気持ち悪くなかった?」


「そうかー? 汚すぎて拾う気にはならなかったけどよ」


「ところで、それ楽しいの?」


 私が聞くと、健太は男の頭を軽く靴の裏で踏みつけた。


「やってみるか?」


「いや、なんか汚いし。気持ち悪いし」


「よし、写真撮ろうぜ」


 健太はそう言うと、うずくまる男の汗ばんだ髪を乱暴に掴み、無理やり顔を持ち上げた。


「真希、撮ってくれ」


「えー。私ので撮るの、嫌なんだけど」


 後でフォルダを見るのも気持ち悪い。


「いいから、早く撮れよ!」


 苛立った健太の怒鳴り声が、埃っぽい教室の空気を震わせた。


「もー、そんなにすぐ怒んないでよ」


 私はため息をつき、スマホのカメラを起動してレンズを二人へ向けた。


「はいはい、これでいいでしょ」


 カシャっ。


 無機質な電子音が鳴り、男の苦痛に歪んだ顔と、健太の下卑た笑いが画面に切り取られた。


「よし、送ってくれ」


 言われた通り、メッセージアプリを開いて今撮ったばかりの写真を送信する。


 その直後、写真フォルダのサムネイルに違和感を覚えた。


 今撮った写真の隣に、見覚えのない写真が一つ増えている。


 タップして拡大する。


 そこには、学生服を着た中学生くらいの男が写っていた。


 こちらをじっと見つめている。


 感情の抜け落ちた、不気味なほどに無表情な顔だった。


「なにこれ……」


「おー、この写真いいな。俺ももう一枚撮っておくか」


 健太が自分のスマホを取り出し、男の顔にレンズを近づけた。


 カシャ、カシャ。


「最初から自分で撮ればいいのに」


「うっせーよ。真希ももう一枚撮っとけ」


「はいはい」


 私は画面の無表情な男から目を逸らすようにして、再びカメラを構えて適当にシャッターを切った。


 カシャ。


「……ん? なんだこの写真」


 不意に健太の低い声がした。


「どうしたの?」


「これ、見ろよ」


 健太が差し出してきたスマホの画面を見て、私は息を呑んだ。


 さっき私のスマホにあったのと同じ、無表情な中学生の男の写真。


 そして、その隣にもう一枚。


 無表情な男が、正座させられている一人の男の頬を思い切り平手打ちしている写真だった。


 叩かれているのは、今私たちの目の前で床にうずくまっている男ではない。


 誰だろう。


 嫌な汗がじわりと首筋に滲んだ。


 自分のスマホの画面を確認する。


「私のにも……二枚ある」


 教室の空気が、急激に冷え切っていくのを感じた。


「なにこれ……?」



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