27.田中 有紀5
スマホから聞こえる単調なコール音が、静まり返った部屋に響き渡る。
誰か出て。
『……もしもし、西本です』
数回のコールの後、若い女性の声が聞こえた。
聞き覚えのある、穏やかな声だった。
「もしもし、田中有紀です。……覚えていますか?」
『有紀ちゃん。もちろん、覚えているわ。どうしたの?』
奏さんの声は、少し驚きを含んでいたものの、拒絶するような響きはなかった。
「勇気君の今の連絡先って、わかりますか?」
『わかるけど……どうして?』
彼女の声のトーンが、わずかに低くなった。
あの恐ろしい記憶を共有している者同士だからこそ、安易な理由で彼を探しているわけではないと察したのだろう。
私は、起きた出来事を包み隠さず正直に話した。
見知らぬ少女からの、悲痛な助けを求めるメールのこと。
彼女の親友が死んでしまったこと。
『そう……そんなことになっていたのね』
電話の向こうで、奏さんが深く息を吐き出す気配がした。
『それで、どうしても彼と連絡を取りたいと』
「そうなんです」
『私が、何か伝言を送ればいいの?』
「はい、お願いします」
私は震える指でスマホを強く握りしめ、奏さんにあることを頼み込んだ。
翌日の夕方。
茹だるような熱気がコンクリートから立ち上る、何の変哲もない住宅街。
西日が長く伸びるバス停の影のすぐそばに、一人の男が立っていた。
周囲ののどかな風景から完全に浮いている、その異様な姿。
男はなぜか、大きな白い布の塊を両手で抱え込んでいた。
私は息を整え、ゆっくりとその男の背中に近づいた。
「こんにちは」
声をかけると、男の肩がビクッと大きく跳ねた。
「あれ、有紀ちゃん……」
振り返った勇気君は、驚きと戸惑いが入り混じったような、ひどく気まずそうな顔をした。
目の下に濃い隈ができており、以前会った時よりも随分と痩せて見えた。
「なんで、連絡してもずっと無視するのかな」
「いや、無視じゃないんだ。着信拒否してるから」
「それは、無視よりひどくない?」
「いや、そうかもだけど……」
勇気君は視線を泳がせた。
「ごめん。今日はここで待ち合わせをしてるんだ。だから、話ならまた今度にしてくれる?」
「奏さんなら来ないよ」
勇気君の動きが、ピタリと止まった。
「え、まさか……」
「私が、奏さんに頼んだの。ここに勇気君を呼び出してほしいって」
「そういうことか」
勇気君は深くため息をつき、周囲を一度見渡してから、厳しい目で私を見下ろした。
「もう関わらないほうがいいよ。有紀ちゃん」
「勇気君が、私に連絡してくれたあのサイトがあったでしょ」
「え? うん、あの、音が鳴るやつ」
呪いの着信音を真似た、二人を繋いだサイト。
「そこに、助けを求めるメールが来たの」
その瞬間、勇気君を包んでいた空気が凍りついたように冷たくなった。
鋭く尖った彼の視線が、私の目をまっすぐに射抜いた。
「……詳しく聞かせてくれる?」




