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呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第二部

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15.北島 穂香4

 私は、テーブルの上で冷え切った自分の手をきつく握りしめた。


 口の中がカラカラに乾いている。


 過去の記憶が、胃の奥をドロドロと掻き回す。


「私……いじめられたの」


 声が震えて、うまく息が吸えない。


 言いたくない。


 思い出したくもない。


「無理やり……」


 そこから先が、どうしても声にならなかった。


 あの日、冷たい床に押し付けられた感触が肌に蘇る。


 視界の端で、携帯のカメラが、笑い声とともに私に向けられていた。


「……服を、脱がされて。裸の写真を、撮られた」


 爪が手のひらに食い込み、血が滲みそうになる。


「嫌だって泣き叫んだけど、クラス全員に一斉送信するって脅されて。橋田は本当に、クラス全員のメールアドレスを集めていたから」


 逆らえる人間なんて、もう誰もいなかった。


 次は自分が標的になるかもしれないという恐怖で、教室は完全に支配されていた。


「私が、次に指名したのは……西本祐希君と、下田京子ちゃん」


 罪悪感が、喉の奥から酸液のようにせり上がってくる。


「西本君は、いつも無表情であまり感情を見せないタイプだった。下田さんは、教室の隅で本を読んでいるような物静かな子で……」


 深く息を吸い込むと、古い喫茶店のカビ臭い空気が肺に張り付いた。


「私は、自分と一番関わりのない二人を選んだの。……最低だよね」


 自分で言いながら、ひどい吐き気がした。


「穂香ちゃんのせいじゃない」


 隣で、紬ちゃんが私の肩にそっと触れた。


「下田さんのことは、私が話すわ」


 紬ちゃんが、保科君の携帯に向かって少しだけ身を乗り出した。


「花音さんは、いつの間にかうまく立ち回って、橋田の隣で笑っていたわ。この頃から、クラス全員の携帯に毎日のようにいじめの写真が送られてくるようになって……」


 紬ちゃんの声が、微かに湿りを帯びる。


「京子ちゃんは……レイプ、された」


 静寂が、重く店内にのしかかった。


「ひどい目に遭わされて。その写真もたくさん撮られて、ばら撒くって脅されて。……彼女、私に相談してきてたのに」


 紬ちゃんが、顔を両手で覆った。


「私、自分が次の標的になるのが怖くて、何もできなかった。そして……彼女は自殺したわ」


 指の隙間から、すすり泣く声が漏れる。


「警察も学校に来たの。大人が何人も教室に入ってきて、一人ずつ事情を聞かれた。でも、誰も橋田の名前を出さなかった。……出せなかったの」


 得体の知れない恐怖が、完全に私たちの口を塞いでいた。


「西本君だけは、違った」


 私は、涙を拭う紬ちゃんに代わって再び口を開いた。


「彼は、次の二人を指名しろという橋田の命令を、ずっと拒否し続けていたの」


 当然、橋田の暴力はエスカレートしていく。


 送られてくる写真は、日に日に直視できないほど残酷なものに変わっていった。


 それでも、西本君は絶対に口を開かなかった。


 だが、最後には。


「どうしてあんなことになったのか、わからない」


 脳裏に、あの日の教室の異様な光景がフラッシュバックする。


「あんなに強かった西本君が……涙と鼻水で、顔をグチョグチョにして」


 冷たい床に這いつくばって、橋田の靴にすがりついていた。


「指名させてくださいって、大声で懇願したの」


 あんな惨めな西本君の姿、誰も見たことがなかった。


「そして……西本君は……」


 言葉が、喉の奥でつかえて出てこない。




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