12.北島 穂香3
凍りついたように、私と駒田さんは言葉を失った。
エアコンの低い駆動音だけが、薄暗い店内に響いている。
「そんなことって……」
駒田さんが、ひび割れたような声を出した。
「だって……自殺だと、警察が」
「いじめていた橋田君が、なんでそんなことを……」
私は動揺して、全く考えがまとまらない。
「保科君、憶測で言っていいことではないわ」
『俺の手元には、橋田……橋田隆史と、三井花音の当時の携帯があります』
テーブルに置かれた黒い塊から、勇気の平坦な声が続く。
『これは、三井風花が保管していて、俺に送ってきたものです』
「まさか……」
『その中には、いじめの写真とメールが残されていました。そして、花音から吉田俊二宛てのメールに書いてあったんです』
「……吉田俊二?」
少し離れた場所に立っていた細山翔太が、不意に低い声を出した。
『翔太、何か言ったか?』
「いや、気にすんな」
細山翔太は舌打ちをして、壁に乱暴に背中を預けた。
『花音のメールには、橋田が焼き殺したとバレると、私たちのいじめも殺人になるかもしれない……みたいな内容が残されていました』
私は、両手で自分の顔を覆った。
『それが、橋田がやったという根拠です』
「あの二人は、隠したのね」
『はい』
駒田さんは、テーブルの上で両手を強く握り合わせた。
指先が血の気を失い、白く変色している。
「それで、あなたは何を知りたいの?」
『あの頃、何があったのかを』
駒田さんは、深く、長く息を吐き出した。
「あの頃のことは、関わった人はみんな傷があるわ」
「でもいいわ。私の知ることなら」
『お願いします』
「そうね……私たちは人数の少ない学校だったから、小学校から中学卒業までクラスは一つだったの」
「だから、ずっと同じクラスメイト」
「中学一年の時に、橋田が転校してきたわ」
『そこから始まるわけですか』
「多分、あなたの想像とは違うわ」
駒田さんは、私の顔を一度だけちらりと見た。
「橋田は、転校してきてから……川路にいじめられていたの」
『え、川路って……川路旅館の?』
「ええ、そう」
カランカラン。
その時、不意に背後でドアベルの乾いた音が鳴った。
振り返ると、細山が黙って店を出ていくところだった。
開いた重い扉の隙間から、むわっとした外の熱気が一瞬だけ入り込み、すぐに遮断される。
『誰か来ましたか?』
「細山君が出ていったわ」
『そうですか。気にしないで、続きをお願いします』




