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呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第二部

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9.細山 翔太1

 なーんでこんな山奥に町なんか作るんだよ。


 アスファルトから立ち昇る陽炎が、遠くの景色をぐにゃぐにゃと歪ませている。


 首筋を流れる汗をTシャツの襟で乱暴に拭いながら、俺は悪態をついた。


 それにしても、保科の野郎、無茶苦茶言いやがって。


 朝イチでこんな何もない田舎まで行かせるとか、頭おかしいんじゃねえのか。


 日当二万じゃ、どう考えても割に合わねえ。


 まあ、こないだバイトを首になったばっかりだし、格好も自由だから文句も言えねえか。


 舌打ちをして、サングラスを少し押し上げる。


 どこだよ、駒田って家は。


 「土地をいっぱい持ってる駒田」だけで通じるって、どんだけだよ。


 あー、面倒くせえ。


 さっきすれ違った小綺麗な親子が知ってりゃ、話が早かったのによ。


 辺りを見回すが、真昼間だというのに歩いている人間が全く見当たらない。


 茹だるような熱気の中で、蝉の鳴き声だけが頭の中にガンガンと響いてくる。


 お。


 少し先の木陰に、農作業着のような格好をした婆さんが立っているのが見えた。


「なあ、オバサン。駒田って家、知らねえ?」


 婆さんはゆっくりとこちらを向き、しわくちゃの顔を不快そうに歪めた。


「なんだい、あんた。失礼な若者だねえ」


「あ?」


「都会の人間は、変なのばっかりだね」


「んだよ、知らねえのか?」


 苛立ちを隠さずに凄むと、婆さんは冷ややかな目で俺を上から下まで舐め回した。


「そんな聞き方じゃ、知ってても教えません」


「……はあ? 面倒くせえオバサンだな」


 額に青筋が立ちそうになるのをこらえ、俺はわざとらしく大きなため息をついた。


「あー、悪かったよ。頼むから、教えてくれ」


「それで頼んでるつもりなの? ……そこだよ」


 婆さんが顎でしゃくった先を見る。


 そこには、周囲の民家とは明らかに規模の違う、黒い板塀に囲まれた馬鹿でかい屋敷が建っていた。


「それかよ。デカすぎんだろ。……ありがとなー」


 婆さんは「ふんっ」と鼻を鳴らし、こちらに背を向けてノロノロと歩き去っていった。


 俺は屋敷の立派な門構えの前に立ち、インターホンを何度か鳴らした。


 ……出ない。


 屋敷の奥からは何の生活音も聞こえず、気味が悪いほどの静寂が漂っている。


 いねえのかよ。どうすっかなー。


 俺はポケットから携帯を取り出し、保科に電話をかけた。


「あー、保科ー。駒田、居ねえぞ」


『そうか。お盆だから、どこか親戚のところにでも行ってるか、墓参りかもな』


「で、どうすりゃいいんだ」


『また、夕方に行ってみてくれ。あと、そこには旅館が一軒だけしかない。部屋を取っておくから、今日は泊まってくれ』


「はあ? 泊まりかよ」


『なんか予定あるのか?』


「ちっ、何もねえけどよ。いきなりすぎるっての」


『すまないが、頼む。……写真は、増えてないか?』


 保科の声が、一瞬だけ鋭く、冷たくなった。


「あー、三枚のままだな。車移動だから問題ねえよ」


 俺は通話しながら、自分の携帯の画面をチラリと見た。


 気味の悪い写真が三枚、俺のフォルダに確実に居座っている。


『それならいい。……あと、そこには「急に写真を撮るオバサン」がいるから、気をつけろよ』


「は? なんだそりゃ」


 ツー、ツー。


 俺が聞き返す前に、電話は一方的に切られてしまった。


「あー、面倒くせえ」


 俺は携帯をポケットに突っ込み、デカい屋敷を見上げた。


 急に写真を撮るオバサン。


 その言葉の意味を考えた時、茹だるような暑さのはずなのに、背筋にヌルリとした不気味な悪寒が這い上がるのを感じた。



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