7.北島 玲奈4
見知らぬ誰かとのメールのやり取りを終え、私はふとスマホの画面上部に目を向けた。
結構遅い時間になったな。
客間の外からは、鈴虫の鳴き声だけが一定のリズムで聞こえてくる。
田舎の夜は、息が詰まるほど静かだ。
『起きてる?』
碧のトーク画面を開き、短いメッセージだけを送ってみる。
すぐに既読はつかない。
返信は来ないか。さすがに、もう寝ているだろう。
メールのやり取りを思い出す。
こんなおかしなこと……
――ブブッ。
布団に潜り込もうとした瞬間、掌の中で携帯が短く震えた。
『起きてる』
碧からの返信だった。
私はホッとして、すぐに画面をタップし始めた。
『ネットで調べたら、なんか詳しい人がいて。写真に撮られるなって言われた』
『私もDMの人に聞いた。あと、写真が六枚に増えたらだめだって』
六枚。
その数字を見て、私は少し首を傾げた。
『六枚? 私は、八枚って聞いたよ』
『え? どういうことだろ』
碧から、すぐに戸惑いの返信がくる。
『やっぱり、都市伝説みたいなものなのかな』
『でも、実際に写真増えてるよ』
それはそうだ。私のスマホにも、あの不気味なのっぺらぼうの男の写真が確かにある。
『新種のウィルスとかなのかな。……あ、でも、呪いをなくす方法も聞いたよ』
『え、どうするの?』
私は一度深呼吸をして、先ほどメールで知ったばかりの恐ろしい情報を文字に打ち込んだ。
『着信音の設定の中に「指名」って音があって、それを聞かせた人に呪いは移せるって』
『移せる?』
『うん』
少しの間が空いた。
『それって……ほかの人が呪われるってこと?』
私は、暗い部屋の天井をじっと見つめた。
もちろん、そうだ。自分が助かる代わりに、誰かを犠牲にする。
だけど。
『そうだけど。私も碧も助かるなら、してもいいと思う』
冷たい画面に向かって、私は迷いなく打ち込んだ。
『私たちも、勝手に巻き込まれたんだから』
『そうかな。DMの人、保科って人は、呪いはなんとかするって言ってたけど……』
『なんとかしてくれたら、それでいいけど』
自分の心の中に、黒く冷たい塊が沈んでいくのを感じる。
『私は、自分と自分の大事な人を優先するよ』
送信ボタンを押した瞬間、自分がひどく冷酷な人間に思えた。
『そうだね。分かった。さすがに今日は疲れた』
『だよね、寝よ』
『うん、おやすみ』
碧とのやり取りは、そこで途切れた。
これで、大丈夫なはず。
いざという時の逃げ道は、確保できたのだから。
私は携帯を枕元に置き、首までしっかりと布団を被った。
時計の針が進む音と、遠くで鳴り続ける虫の声。
結局、その夜の私は、朝焼けが窓を白く染めるまで全く寝付くことができなかった。




