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拾ったスマホ ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第二部

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5.田中 有紀2

 どうしよう。


 ディスプレイの青白い光が、薄暗い自室の中で私の強張った顔を照らし出している。


 この連絡用のサイトを作ったことなど、日常の忙しさに紛れてすっかり忘れていた。


 あれほど勇気君を手伝いたい、彼を一人にしたくないと思っていたはずなのに。


 いざ、あの呪いの気配に再び触れた瞬間、恐ろしくなった。


 パソコンの冷却ファンが、耳障りな低い音を立てて回っている。


 しかし、私の脳裏にはあの恐怖の日々が、そして去っていった勇気君の孤独な背中が鮮明に焼き付いている。


 私にも、まだできることがあるはずだ。


 恐怖で竦む気持ちを必死に奮い立たせ、私はキーボードに震える指を置いた。


「連絡ありがとうございます」


 声に出さずに呟きながら、画面に文字を打ち込んでいく。


「まず、これが私の知る呪いであるなら、写真に撮られることで進行します」


 カタ、カタカタと、乾いた打鍵音が部屋に響く。


「絶対に写真を撮られないでください。現在の状況を教えてくれますか?」


 送信ボタンを押し、私は大きく息を吐き出した。


 額に滲んだ汗が、張り付いた前髪を濡らしている。


 すると、数分も経たないうちにメーラーの受信音が静寂を切り裂いた。


 ビクッと肩を震わせながら、急いで新着メッセージを開く。


「のっぺらぼうの男の人の写真が、1枚増えていました」


「友達は、3枚だと言っていました」


 その文面を読み、私は思わず息を呑んだ。


 二人。


 あの時の私と、梨花と同じだ。


 それに、のっぺらぼうの男というのはあの時の。


「八枚になると、命の危険があります」


 そこまで文字を打ち込み、私の指はぴたりと止まった。


 カーソルが、一定のリズムで無機質に点滅を繰り返している。


 呪いを他人に移す方法を、見ず知らずのこの人に教えるべきなのだろうか。


 あの地獄のような連鎖を、私が自らの手で再び生み出してしまうかもしれない。


 でも。


 もしあの時、お父さんがその方法を知らなければ、私は死んでいたかもしれない。


 喉がカラカラに渇いていた。


「着信音の中に、『指名』というものがあるはずです」


 迷いを断ち切るように、私は奥歯を噛み締めて文字を繋いだ。


「それを誰かに聞かせれば、あなたの写真は減ります。全て無くなれば、呪いは解けます」


「ですが、聞かされた人は呪われます。恐ろしい方法です」


「でも……私の知っていることは、これで全部です。何かあれば、また連絡してください」


 画面の右下にある送信ボタンの上に、マウスポインタを移動させる。


 人差し指に、信じられないほどの重みを感じた。


 ためらいが、何度も私の手を止める。


 このボタンを押せば、誰かが助かり、見知らぬ誰かが理不尽に死ぬかもしれない。


 暗闇の中で、私を生かすために静かに狂っていった父の笑顔がフラッシュバックした。


 それでも。


 今、恐怖の底で震えているであろうこの人に、私にできることはしてあげたい。


 カチリ。


 静かな部屋に、マウスのクリック音が冷たく響いた。


 メールが送信された画面を見つめたまま、私は深く背もたれに体を預けた。


 しばらくすると、短い返信が届いた。


「ありがとうございます。また、連絡します」


 私は立ち上がり、重い足取りで窓辺へと向かった。


 窓ガラス越しに見える夏の夜の闇は、息が詰まるほど深く、濁っているように見えた。


 自分が他人の命を天秤にかけてしまったという事実に、足の震えが止まらない。


 勇気君なら、どうしただろう。


 ガラスに映る自分の青ざめた顔をじっと見つめながら、私は誰にも届かない問いを心の中で繰り返していた。




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