2.北島 玲奈2
「返信しないほうがいいよ。付きまとわれたりしそうだし」
私が画面を覗き込んで言うと、碧も気味悪そうに頷いた。
「変な宗教かもね」
「それもあるかも」
そんな他愛のない話をしているうちに、私は自分のスマホに入っていた変な写真のことなど、すっかり忘れてしまっていた。
八月十二日、早朝。
「さて、行くか」
車好きの父さんが、愛車のハンドルを握って上機嫌に言った。
なんとかレディとかいうスポーツカーで、父さんはシフトレバーをガチャガチャと弄りながら楽しげに車を走らせる。
「飛ばしすぎよ、あなた」
「大丈夫だ。この程度は飛ばしてるうちに入らんよ」
助手席の母さんと父さんのそんな会話を聞きながら、私は後部座席で外の景色を眺めていた。
碧、今日の試合出たりしてないよね……。
休んでしまった今日の試合のことが、どうしても気になってしまう。
高速を降りた車は、山道を軽快に走り抜けていく。
私は鬱蒼と茂る林の中を走るこの道が、気味悪くて昔から嫌いだった。
シルバーの車体から唸りを上げるエンジン音が、今日はことさらに不気味に響くような気がした。
「やはり、町までの山道はいいコースだな」
「もう。そういうとこは、昔から変わらないんだから」
その言葉にふと思った。
性格が全然違うのに、なんで結婚したのかな、なんて。
その時、ポケットの携帯がブルッと震えた。
『今日は休みの人が多くて、後半途中から試合に出たー!』
え? 嘘でしょ。
ありえない。私も行けばよかった。
でも、良かったね、とだけ短いメッセージを返す。
やがて、目的地の〇〇町にある祖父の家にたどり着いた。
車を降りると、玄関から祖父が顔を出した。
「おお、玲奈。よく来たな」
すでに祖母が他界して、一人で大きめの一軒家に住む祖父は、相変わらず元気そうだった。
「……川端、さん?」
不意に、背後から母さんに声がかけられた。
「え? あ……駒田さん?」
母さんが振り返り、少し驚いたような声を上げた。
「ええ、お久しぶりね。お盆で帰郷?」
「うん、そうなの。久しぶりね」
どうやら母さんの地元の知り合いらしい。川端というのは、母さんの旧姓だ。
だが、二人の間には妙な距離感というか、気まずい空気が流れているような気がした。
「もし良ければ、あとでお茶でも……」
「そ、そうね。時間があれば……」
言葉を濁す母さんを見て、駒田さんはちらりと私の方に視線を向けた。
「……いえ、やっぱり、ううん。時間があれば連絡してね。じゃあ」
駒田さんはそそくさと踵を返し、母さんも小さく手を振ってそれを見送った。
「知り合い?」
「小学校から中学校まで一緒だった、クラスメイトよ」
「ふーん。なんか仲悪かった?」
「そんなことはないけど。ずいぶん久しぶりだったから、それだけよ」
「ふーん」
夜。
祖父の家で豪華な夕食を食べる。
ポケットの中で携帯が震えた。碧からかもしれない。
すぐにでも携帯を見たかったが、食事中に携帯を弄るのは父も祖父もいい顔をしないので、ぐっと我慢した。
食後、祖父と父さんが楽しそうに酒盛りを始めた。
私はそっと席を立ち、勝手に自分の部屋に決めた客間へ戻って、急いで携帯をチェックした。
画面には、碧からメッセージが何件も入っていた。
スクロールして、次々とメッセージを見ていく。
『へへーいいでしょー』
『何枚か試合の写真、お父さんが撮ってくれたから送るねー』
続けて、三枚の試合中の写真が送られてきていた。
あー、羨ましいな。
少しふてくされながら画面を見ていると、さらに新しいメッセージが届いていた。
『なんか変な写真もあるんだけど』
『え? なにこれ』
『気持ち悪い、玲奈。これなんだろ』
『顔のない変な写真と、なんでか撮ったことない私の写真も』
メッセージは、そこで終わっていた。
顔のない、変な写真……?
その言葉を見た瞬間、私の背筋をゾクリと冷やした。




