50.田中 有紀15
なんとか駅に着いたが、そこには誰もいなかった。
どこに行けばいいのかもわからない。
私は震える指で、勇気君に電話をかけた。
出て、勇気君。
……出た。
「もしもし」
「勇気君、もしもし!」
「……着いたけど、どうしたらいい?」
「大通りを北に上がって、墓地に来てくれ。俺も向かってる」
それだけ言って、電話は一方的に切れてしまった。
墓地ってどこよ。北ってどっちなの。
辺りを見回すと、農作業着のような格好をしたおばさんが歩いているのが見えた。
「すみません、墓地はどっちですか?」
「ああ、あっちの道をまっすぐだよ」
「あ、わかりました。ありがとうございます」
その時、背後から『カシャッ』と不意にシャッター音が響いた。
ビクッとして、私は慌てて振り返った。
おばさんは自分のスマホをしまいながら、クスクスと笑っていた。
「都会の人は、写真に過敏なんだねー。虹を撮っただけだよ」
……何なんだ、もう。
私は心臓をバクバクさせながら、反射的に自分のスマホの画面を確認した。
あ……ない。
そうだ……私のスマホには、もうあの呪いの写真は一枚もないんだった。
お父さんが、すべてを他人に移してしまったから。
私はギュッとスマホを握りしめ、「よし、行こう」と呟いて駆け出した。
教えてもらった墓地までたどり着くと、少し離れたところに勇気君と、誰か見知らぬ女の人が立っているのが見えた。
二人は、深刻な顔で何か話している。
私が足音を殺して近くまで行くと、勇気君は古い墓石の方を向き、線香に火をつけて静かに手を合わせた。
すぐ隣まで近づいても、勇気君はこちらに気がついている様子はなかった。
そして、勇気君の瞳から、大粒の涙が幾筋も零れ落ちた。
「……西本君。君の名誉は、今、回復されたよ。……ゆっくり、寝てくれ」
震えるような、深い祈りの込められた涙声だった。
それを聞いた、後ろに立っていた女性も、ウッと声を漏らして泣き崩れた。
私には、彼らの間で何があったのか、風花さんから送られてきた携帯に何が残されていたのか、全くわからなかった。
でも……長く苦しい『何か』が、今ここで終わったのだということだけは、肌で感じ取ることができた。
やがて顔を上げた勇気君が、ようやく私の存在に気がついた。
「……有紀ちゃん」
「勇気君……」
「こちらは、西本君の妹の奏さんだ」
紹介されて、私は涙ぐむ奏さんに軽く頭を下げた。
勇気君は、おもむろに自分のポケットから携帯を取り出した。
そして、画面の写真フォルダを確認する。
すると、画面の中にあった焼け爛れた西本君の写真が、一枚、また一枚と、音もなく消えていった。
勇気君は「ふーっ」と大きく息を吐き出し、全身の力が抜けたように深く肩を落とした。
呪いが、解けた。
写真が、消え始めたのだ。
……しかし。
ホッとしたのも束の間、真っ白になったはずの画面に、すぐに『新しい写真』が浮かび上がり始めた。
それは、私の全く見覚えのない、女の子の写真だった。
勇気君の顔から、一瞬にして血の気が引いていく。
彼が、絶望に染まった声で、その名前を呟いた。
「……三井、花音」




