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呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第一部

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50/90

50.田中 有紀15

 なんとか駅に着いたが、そこには誰もいなかった。


 どこに行けばいいのかもわからない。


 私は震える指で、勇気君に電話をかけた。


 出て、勇気君。


 ……出た。


「もしもし」


「勇気君、もしもし!」


「……着いたけど、どうしたらいい?」


「大通りを北に上がって、墓地に来てくれ。俺も向かってる」


 それだけ言って、電話は一方的に切れてしまった。


 墓地ってどこよ。北ってどっちなの。


 辺りを見回すと、農作業着のような格好をしたおばさんが歩いているのが見えた。


「すみません、墓地はどっちですか?」


「ああ、あっちの道をまっすぐだよ」


「あ、わかりました。ありがとうございます」


 その時、背後から『カシャッ』と不意にシャッター音が響いた。


 ビクッとして、私は慌てて振り返った。


 おばさんは自分のスマホをしまいながら、クスクスと笑っていた。


「都会の人は、写真に過敏なんだねー。虹を撮っただけだよ」


 ……何なんだ、もう。


 私は心臓をバクバクさせながら、反射的に自分のスマホの画面を確認した。


 あ……ない。


 そうだ……私のスマホには、もうあの呪いの写真は一枚もないんだった。


 お父さんが、すべてを他人に移してしまったから。


 私はギュッとスマホを握りしめ、「よし、行こう」と呟いて駆け出した。



 教えてもらった墓地までたどり着くと、少し離れたところに勇気君と、誰か見知らぬ女の人が立っているのが見えた。


 二人は、深刻な顔で何か話している。


 私が足音を殺して近くまで行くと、勇気君は古い墓石の方を向き、線香に火をつけて静かに手を合わせた。


 すぐ隣まで近づいても、勇気君はこちらに気がついている様子はなかった。


 そして、勇気君の瞳から、大粒の涙が幾筋も零れ落ちた。


「……西本君。君の名誉は、今、回復されたよ。……ゆっくり、寝てくれ」


 震えるような、深い祈りの込められた涙声だった。


 それを聞いた、後ろに立っていた女性も、ウッと声を漏らして泣き崩れた。


 私には、彼らの間で何があったのか、風花さんから送られてきた携帯に何が残されていたのか、全くわからなかった。


 でも……長く苦しい『何か』が、今ここで終わったのだということだけは、肌で感じ取ることができた。


 やがて顔を上げた勇気君が、ようやく私の存在に気がついた。


「……有紀ちゃん」


「勇気君……」


「こちらは、西本君の妹の奏さんだ」


 紹介されて、私は涙ぐむ奏さんに軽く頭を下げた。


 勇気君は、おもむろに自分のポケットから携帯を取り出した。


 そして、画面の写真フォルダを確認する。


 すると、画面の中にあった焼け爛れた西本君の写真が、一枚、また一枚と、音もなく消えていった。


 勇気君は「ふーっ」と大きく息を吐き出し、全身の力が抜けたように深く肩を落とした。


 呪いが、解けた。


 写真が、消え始めたのだ。


 ……しかし。


 ホッとしたのも束の間、真っ白になったはずの画面に、すぐに『新しい写真』が浮かび上がり始めた。


 それは、私の全く見覚えのない、女の子の写真だった。


 勇気君の顔から、一瞬にして血の気が引いていく。


 彼が、絶望に染まった声で、その名前を呟いた。


「……三井、花音」




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