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呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第一部

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49/87

49.田中 有紀14

 愕然として立ち尽くしている私のポケットで、突然携帯が震えた。


 画面には「勇気」の文字。


「もしもし」


『……有紀ちゃん』


 電話越しに聞こえた勇気君の声は、今まで聞いたことがないほど、ひどく強張った怖い声だった。


『俺……これから、〇〇町に向かう』


「え……なんで。ダメだよ、外に出たら危ないよ!」


『行かなければ、ならなくなったんだ』


「どういうこと……?」


『……来るなら、現地で落ち合おう。俺はすぐに出る』


「え、待って! どういう……」


 ツー、ツー。


 私が言い終わる前に、電話は一方的に切られてしまった。


 なに。一体、何が起きているの。


 私は慌てて一階に駆け下り、リビングにいたお父さんに「急いで〇〇町に行きたい」と伝えた。


 お父さんは少し驚いた顔をした後、静かに頷いた。


「……少し準備をするから、待ちなさい」


 そう言って、お父さんはどこかへ支度をしに向かおうとした。


 そばにいたお母さんが、不安そうな顔で立ち上がる。


「あなた、私が行きましょうか?」


「いや。大丈夫だ」


 お父さんが短く答えた、その瞬間。


 私は、ハッと思い出した。


 そうだ。今、お父さんの携帯には……私が押し付けた、あの呪いの写真が入っているんだ。


 もしお父さんが私と一緒に外に出て、誰かのカメラに映り込んでしまったら。お父さんが、死んでしまう。


「お父さん、やっぱりいい!」


「有紀……?」


「私、一人で行けるから! いや、大丈夫だから!」


 私は玄関にあった財布と上着をひったくるように掴むと、静止するお父さんの声を振り切って、家を飛び出した。


 全力で駅へと向かって走る。


 あんな遠くの山奥の町なんて、一人で行ったことはない。


 けれど、携帯の乗り換え案内さえ見れば、乗るべき電車はわかるはずだ。


 息を切らして電車に飛び乗り、空いている座席に倒れ込んだ。


 すぐに勇気君にメッセージを送るが、いっこうに既読がつかない。返信も来ない。


 あんな震えるような恐ろしい声、初めて聞いた。


 彼の身に、一体何が起きているのだろう。


 焦りと不安に押しつぶされそうになりながら、何度目かの乗り換えを終えて、ようやくローカル線の座席に座った時だった。


 ブブッ、とスマホが震え、勇気君から短いメッセージが返ってきた。


『風花さんから、郵便が届いた。携帯電話が二台入ってた』


 メッセージには、それだけが書かれていた。


 携帯電話が、二台。


 誰の?


 ……まさか。


 私の手元には、私を呪って絶望へ突き落とすための『手紙』だけが送られてきた。


 そして勇気君の元には、すべての始まりであるあの『携帯電話』が。


 橘風花は、死の直前に一体何を考えて、こんな真似をしたのだろうか。


 私は彼女の底知れない悪意の意図が全くわからなくなり、ただ暗い車窓に映る自分の青ざめた顔を呆然と見つめていた。



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