47.田中 有紀12
翌朝。
目を覚ました私は、無意識のうちに枕元の携帯に手を伸ばしていた。
あれ?
携帯を手に取った瞬間、微かな違和感を覚えた。
なんだろう。
はっきりとは分からない。でも、置かれていた位置が数センチずれていたような、誰かに触れられたような……ひどく嫌な予感がした。
私は震える指で画面のロックを解除し、写真フォルダを確認する。
……嘘。
そこには、一枚も……なかった。
あれほど私を恐怖のどん底に突き落としていた、あのアザだらけの少年の写真が、一枚残らず消え去っていたのだ。
お父さん……まさか……!
喉の奥から這い上がりそうになる絶叫を、私は両手で口を強く塞いで必死にこらえた。
私が眠っている間に、お父さんは私の携帯を持ち出し、身代わりとなる人間にあの音を聞かせたのだ。
すぐに勇気君に電話を……そう思って発信ボタンを押しかけ、私はハッとして指を止めた。
だめだ、できなかった。
もし今、私が泣きながら電話をしてしまったら、あの能天気でお人好しな勇気君のことだ。絶対に心配して、すぐに私の家まで駆けつけてきてしまう。
彼のスマホには、すでに六枚の呪いの写真がある。
もしここへ来るまでの道中で、あと二回誰かのカメラに映り込んでしまったら……彼は、確実に死ぬ。
だめ、それは絶対にだめだ。
そう、落ち着いて。落ち着くのよ、私。
勇気君が言っていた言葉を思い出す。
『大元の呪いの真相を突き止めよう。呪いそのものをぶっ壊すしかないんだ』
そうだ。待つんだ。
私にできることは、風花さんが遺したというあの『手がかり』を受け取ることだけ。
でも。
私を生かすために、自ら呪いを引き受けたかもしれないお父さんや、おじいちゃん、おばあちゃんたちの顔が次々と頭に浮かんでくる。
もう、涙はどうやっても止められなかった。
私はベッドにうずくまり、両親に聞こえないように声を殺して、ただ咽び泣いた。
早く……早く風花さんのお葬式が終わってくれと、狂ったように祈りながら。
四日後。
待ちわびていた電話が、ようやく鳴った。
『葬儀はすべて終わりましたので。……取りに来てくれて構わないよ』
梨花のお父さんからの、ひどく掠れた疲弊しきった声だった。
この四日間、私は勇気君には、自分の呪いが家族に移されたことを何も話していない。
ただメッセージで、「絶対に、一歩も家から出ないで」とだけ強く伝えておいた。
彼は何かを察したのか、「わかった、動画見てる」とだけ短い返事をくれた。
このあとは、私が決着をつけるんだ。
お父さんたちの命が理不尽に焼き尽くされる前に、必ず、私がこの呪いを終わらせる。
私は黒い服に着替え、悲壮な決意と共に、あの日訪れた橘の家へと一人で向かった。




