表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/80

46.田中 悠聖8

「お父さんが止まらないのは、もうわかったから……。でも、しばらく……あと十日でいいから、待ってほしい」


 有紀は、涙ながらに私にそう懇願した。


 私は、素直に静かに頷いた。彼女の心をこれ以上乱したくなかったからだ。


 だが、待つ気など毛頭なかった。


 有紀は今日、勇気君か誰かに会うためか、一人で外へと出かけていった。


 それがどれほど危険なことか、あの子自身が一番よくわかっているはずだ。


 何気ない日常の風景の中で、見知らぬ誰かのスマホのカメラに怯え、常に顔を隠し、逃げるように生きなければならない。


 子どもが自由に外を出歩くことすらできないなんて。


 そもそも、そんな世界がおかしいじゃないか。


 だから、私がすべてを終わらせる。今日、この夜のうちに。



 夜の一時。


 寝静まった家の中で、私は有紀の部屋に忍び込み、机の上で充電されていた彼女の携帯をそっとコードから外した。


 冷たい機械の感触を掌に握りしめ、私は車に乗り込んだ。


 まず向かったのは、深夜のひどく臭う高架下だ。


 段ボールやブルーシートが並ぶ暗がりの中で、金で命を買った二人のホームレスの男たちが、所在なさげに私を待っていた。


 私は彼らに、あらかじめ買い与えておいた安物のスマートフォンを握らせた。


「約束通り、金は家族の口座に振り込んである。……今から鳴らす音を、ただ聞いてくれればいい」


 私は有紀の携帯を操作し、あの忌まわしい着信音の設定画面を開いた。


 ふと、周囲の暗がりで身を寄せ合って眠る、大勢のホームレスたちの姿が目に入った。


 こいつら全員に聞かせれば、いくらでも呪いを押し付けることができるのではないか。


 そんな悪魔のような考えが脳裏をよぎったが、すぐに打ち消した。


 呪いのシステムは、音を聞いた人間の「携帯電話のカメラ」と連動している。携帯すら持っていないような連中では、身代わりの器にはなれないはず。


 だからこそ、わざわざこの二人に端末を与え、準備をさせたのだ。


「……私も、一緒に聞こう」


 私は男たちの中心に立ち、有紀の携帯から、あの不気味な電子音を再生した。


 ピ……ピピ、ピー……、という音が、深夜の高架下に不気味に響き渡る。


 しかし、予想外のことが起きた。


 これは、どういうことだ。


 いや、問題ない。



 次に向かったのは、私の実家だった。


 深夜だというのに、親父とお袋は居間の電気をつけて私を待っていた。


「来たか、悠聖」


「ああ。……すまない」


「謝るな。有紀のためだ」


 老いた両親は、震える手を強く握り合いながら、私が差し出した有紀の携帯から流れる音を、目を閉じて静かに聞いた。


 すでに父は聞いているので、母と私、ホームレス二人。


 これで四人、ちゃんと写真は減っている。



 最後に、美奈の実家へと車を走らせた。


 義父と義母もまた、青ざめた顔で私を迎え入れた。


「本当に……これで有紀ちゃんは助かるのね……?」


「ええ。約束します。ですがお義母さんは大丈夫です」


「君は……いや、そうだな。ありがとう」


 義母には外に出てもらう。


 私は一切の感情を殺し、冷徹な作業のように、義父の前で再び音を鳴らした。


 義父は微動だにせず、携帯を見つめていた。


 想定外の事態もあったが、これで合計五人。


 有紀の呪いの写真を消し去るには、十分な数の生贄だ。


 すべてを終え、自宅へ帰り着いた頃には、東の空がうっすらと白み始めていた。


 私は足音を忍ばせて有紀の部屋に入り、机の上に携帯を戻した。


 ベッドの中で、有紀が規則正しい寝息を立てている。


 もう、怯える必要はない。お前を縛り付けていた呪いは、すべて父さんが移してやった。


 私は、眠る有紀の柔らかな髪を、愛おしく軽く撫でた。


「……これで、自由だよ」


 狂気に満ちた夜明けの光の中で、私はただ一人、静かに微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ