45.田中 有紀11
勇気君は、足取り重く帰っていった。
少し落ち込んでいるようだった。あの能天気な彼にしては、とても珍しいことだ。
でも、自分のスマホの中に呪いの写真が六枚もあるというあの絶望的な恐怖は、体験した者にしか絶対にわからない。
きっと、ここから自宅に帰るまでの電車の中も、見知らぬ誰かのスマホのカメラに怯えながらの、とてつもなく恐ろしい時間になるはずだ。
……どうしよう。
風花さんは救急車で運ばれ、どこの病院にいるのかもわからない。
お父さんも、きっとそう長くは待たずに、あの狂った『身代わり』の計画を始めてしまう気がする。
勇気君だって、これ以上写真が増えるのを恐れて、もう家から一歩も出られなくなるだろう。
私にできることは、なに?
何もないの?
暗い部屋の中で、再びどうしようもない無力感に沈んでいた、その時だった。
一階で、家の固定電話が鳴った。
私の家でこの電話が鳴るなんて、とても珍しいことだった。
やがて、階段をゆっくりと上がってくる足音が聞こえた。
コンコン、と控えめなノックの音。
「……入って」
私が返事をすると、静かにドアが開き、ひどく辛そうな顔をしたお母さんが立っていた。
「……有紀。梨花ちゃんのお母さんが、亡くなったって」
その言葉を聞いた瞬間、私は目の前が真っ暗になり、膝から崩れ落ちそうになるほどの衝撃を受けた。
呪いを解くための唯一の手がかりが、永遠に失われてしまった。
「……それとね。連絡をくれた旦那さんが、有紀に話したいことがあるって」
え? 私に、なに?
梨花のお父さんなんて、これまで挨拶程度で、ほとんど会ったこともないのに。
理由もわからないまま、私はフラフラとした足取りで一階へ降りて、受話器を耳に当てた。
「もしもし……お待たせしてすみません」
『……田中有紀さん、だね』
電話の向こうから聞こえてきたのは、ひどく疲れ切った、感情の抜け落ちた男の声だった。
『妻の風花が……死ぬ前に、君に渡してほしいと言い残したものがあるんだ』
「……え?」
『葬式が終わったら、うちに取りに来てもらえるかな』
その言葉に、絶望で凍りついていた私の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
私は、震える手で受話器をきつく握りしめたまま、絞り出すように答えた。
「……わかりました」




