44.保科 勇気19
俺たちは息を切らして、橘風花の家へと走った。
途中、狭い住宅街の道に停まっている工事車両が邪魔で、ひどく通りにくかった。
やがて、忌まわしい記憶の残る橘の家が見えてきた。
家の前では、近所のおばさんたちが数人集まって、ヒソヒソと井戸端会議をしている。
俺はそれを気にすることなく、一直線に玄関へ向かい、インターホンを鳴らした。
……出ない。
もう一度鳴らす。やはり、何の反応もない。留守か?
「お兄ちゃんたち。そこの家の人なら、さっき救急車で運ばれたわよ」
背後から、井戸端会議をしていたおばさんの一人が声をかけてきた。
「え? 運ばれたのって、女の人でしたか?」
「ええ、そこの家の奥さんよ」
おばさんは、興味津々といった顔で口を動かした。
「昔はよくお話したんだけどねえ。まあ、あの家も色々あったみたいだしね。ストレッチャーに乗せられた顔を見たけど、ガリガリに痩せ細っててねえ……」
おばさんの矢継ぎ早に発される無神経な言葉を、俺は右から左へと聞き流した。
もし、風花さんまで死んでしまったら。
呪いを解くための手がかりが、完全に断たれてしまう。
俺は、自分でも驚くほどひどく焦っていた。
「勇気君」
有紀ちゃんが、俺の袖をギュッと掴んだ。
「どこの病院に運ばれたかわからないんだから、ここで慌てても仕方ないよ。……一度、家に帰ろう」
「あ、あー……そうだな。やれることをやろうぜ」
俺は自分に言い聞かせるように呟き、踵を返した。
田中家への帰り道。
住宅街の曲がり角を曲がった瞬間、俺はギョッと足を止めた。
少し先の路上で、一人の男が何故かこちらに向けてカメラを構えていたのだ。
「危ない!」
俺はとっさに有紀ちゃんを背後に庇い、自分の体で彼女をすっぽりと隠した。
男の視線の先を見ると、俺たちの後ろにある家で、何やら外壁の工事をしているらしい。
多分、あの工事の様子を記録用に撮っているだけなのだろう。
「すみませーん! すぐ通ります!」
俺は男に声をかけ、極力カメラの死角になるように身を屈めながら、足早に横を通り過ぎた。
背中に庇われた有紀ちゃんの顔色は、真っ青だった。
「大丈夫だ。なんともないよ」
「でも……勇気君が……!」
「いいから、とりあえず帰ろう」
なんとか田中家に帰り着き、玄関のドアを閉めた途端、俺たちはすがるように自分のスマホを取り出した。
お互いの呪いの写真の枚数を、震える指で確認する。
有紀ちゃんの写真は、五枚のままだった。
そして。
俺のスマホの写真は……いつの間にか六枚に増えていた。
あの工事の写真を撮っていた男のカメラの端に、俺だけが映り込んでしまっていたのだ。
それにそれ以外にもう一枚。
いつの間にか、俺もあと二枚で死ぬところまで追い詰められている。
さすがに、背筋を一筋のひどく嫌な汗が流れ落ちるのを感じた。




