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呪音の連鎖 ―写真が八枚になったらもう終わり―  作者:
第一部

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44/77

44.保科 勇気19

 俺たちは息を切らして、橘風花の家へと走った。


 途中、狭い住宅街の道に停まっている工事車両が邪魔で、ひどく通りにくかった。


 やがて、忌まわしい記憶の残る橘の家が見えてきた。


 家の前では、近所のおばさんたちが数人集まって、ヒソヒソと井戸端会議をしている。


 俺はそれを気にすることなく、一直線に玄関へ向かい、インターホンを鳴らした。


 ……出ない。


 もう一度鳴らす。やはり、何の反応もない。留守か?


「お兄ちゃんたち。そこの家の人なら、さっき救急車で運ばれたわよ」


 背後から、井戸端会議をしていたおばさんの一人が声をかけてきた。


「え? 運ばれたのって、女の人でしたか?」


「ええ、そこの家の奥さんよ」


 おばさんは、興味津々といった顔で口を動かした。


「昔はよくお話したんだけどねえ。まあ、あの家も色々あったみたいだしね。ストレッチャーに乗せられた顔を見たけど、ガリガリに痩せ細っててねえ……」


 おばさんの矢継ぎ早に発される無神経な言葉を、俺は右から左へと聞き流した。


 もし、風花さんまで死んでしまったら。


 呪いを解くための手がかりが、完全に断たれてしまう。


 俺は、自分でも驚くほどひどく焦っていた。


「勇気君」


 有紀ちゃんが、俺の袖をギュッと掴んだ。


「どこの病院に運ばれたかわからないんだから、ここで慌てても仕方ないよ。……一度、家に帰ろう」


「あ、あー……そうだな。やれることをやろうぜ」


 俺は自分に言い聞かせるように呟き、踵を返した。



 田中家への帰り道。


 住宅街の曲がり角を曲がった瞬間、俺はギョッと足を止めた。


 少し先の路上で、一人の男が何故かこちらに向けてカメラを構えていたのだ。


「危ない!」


 俺はとっさに有紀ちゃんを背後に庇い、自分の体で彼女をすっぽりと隠した。


 男の視線の先を見ると、俺たちの後ろにある家で、何やら外壁の工事をしているらしい。


 多分、あの工事の様子を記録用に撮っているだけなのだろう。


「すみませーん! すぐ通ります!」


 俺は男に声をかけ、極力カメラの死角になるように身を屈めながら、足早に横を通り過ぎた。


 背中に庇われた有紀ちゃんの顔色は、真っ青だった。


「大丈夫だ。なんともないよ」


「でも……勇気君が……!」


「いいから、とりあえず帰ろう」



 なんとか田中家に帰り着き、玄関のドアを閉めた途端、俺たちはすがるように自分のスマホを取り出した。


 お互いの呪いの写真の枚数を、震える指で確認する。


 有紀ちゃんの写真は、五枚のままだった。


 そして。


 俺のスマホの写真は……いつの間にか六枚に増えていた。


 あの工事の写真を撮っていた男のカメラの端に、俺だけが映り込んでしまっていたのだ。


 それにそれ以外にもう一枚。


 いつの間にか、俺もあと二枚で死ぬところまで追い詰められている。


 さすがに、背筋を一筋のひどく嫌な汗が流れ落ちるのを感じた。





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